過剰品質にこだわる「日本企業の負けパターン」

【井上】日本メーカーの人は、中国製EVを「こんな安い部品を使うのはあり得ない」と評します。

日本の部品メーカーが中国製EVを分解したデータを見せてもらったんですけどね。中身は車というより家電に近い印象です。そのくらい割り切って、低価格を実現しているんです。

元東大特任教授の村沢義久さん

【村沢】拙著『日本車敗北』(プレジデント社)でも書きましたが、テスラは18650というノートパソコンでも使う量産品の電池を使って、「ロードスター」と「モデルS」を作りました。モーターにも、「ローテク」である交流インダクションモーターを採用しました。

その時、某日本車メーカーの方は「あんなひどい車、売れるわけがない」と言っていました。しかし、結果を見れば、テスラの圧勝です。

【井上】「EVイコール燃える」というイメージがあるので、家電のような格安EVに抵抗のある人もいると思います。ただ、売り込み方の問題でもあって、「モーターは日本電産製です」とか、安全性をきちんとアピールしていけば、日本で受け入れられる可能性はあると思います。

【井上】いま中国ではEVの輸出が爆発的に増えています。2020年には5万600台でしたが、21年には26万7000台になりました。たった1年で約5倍です。

【村沢】NIOや小鵬などの新興ベンチャーが相次いでヨーロッパでの販売を開始していますからね。日本車メーカーは国内外で二千数百万台を生産していますが、そのうち約80%が海外向けです。日本車の「戦場」はあくまで海外なのです。

その海外で、中国製EVが急増しています。日本車メーカーはこのままで本当に大丈夫なのでしょうか。日本市場というガラパゴスに特化し、世界が求めていない過剰品質にこだわり、新しいニーズへの適応を怠る。これは典型的な日本企業の負けパターンです。

日の丸電池産業は「半導体の二の舞い」か

【村沢】世界では電池の調達合戦が始まっています。EV向け電池は、中国のCATL、韓国LGがリードしています。テスラはCATL、LGからの購入に加えて自前での開発を進めています。大手では、GMがLGから調達、フォードは韓国のSKIと手を組もうとしています。電池の調達合戦でも、日本車メーカーは劣勢に立たされているように見えます。

経済ジャーナリストの井上久男さん

【井上】私は半導体と同じようなことが起きるんじゃないかと思ってます。電解質が液体のリチウムイオン電池はこれからコモディティ化が進んでいくと見ています。今後はいかに安く大量に作るかという競争になるので、中国・韓国勢との「消耗戦」に突入するでしょう。

ただ、経済安全保障の観点で、国内に国策電池メーカーを作る動きが出てくるかもしれません。ヨーロッパも域内での電池産業育成に動いていますし。それと日本には電池メーカーが多すぎますので、再編が必要です。そうしないと、半導体のように共倒れの結果になるかもしれません。