配送車、バス…日本製が弱い分野が狙われている

【井上】商用車では中国の進出が始まっています。佐川急便やSBSホールディングスは、大規模なEV調達を発表しています。このEVは、日本のベンチャー企業が企画開発を担当し、生産は中国メーカーに委託することになっています。

大手物流企業は上場していますので、環境対策に敏感です。アマゾンなどの荷主企業が、脱炭素化を求めるという側面もあります。また排ガス対策としても、EVシフトのニーズは高いです。

【村沢】アマゾンは配送用の特注EVを、リビアンというベンチャーから、約10万台も調達すると発表していますね。

【井上】大手物流企業以外でも、EVのニーズはあると思います。いわゆる「赤帽」のような小規模な配送業者からもEV化の検討の声が聞かれます。ただ、そういうニーズを満たす日本製EVがないのが現状です。そのため、中国製EVを買わざるを得ないのです。

【村沢】中国製EVバスの導入も進んでいますね。この分野ではBYDが世界トップです。日本での導入台数は現時点ではまだ数十台ですが、BYDジャパンは2030年までに累計で4000台という販売計画を発表しています。

2019年の上海モーターショーにおいて、私はBYDの担当者に「唐」「宋」といった彼らのEVを、日本で売る気はないかと尋ねました。彼らの回答は、「日本で乗用車を売るのは難しい。そのため、商用車で参入することを考えている」というものでした。

2019年10月22日、深圳市を走るBYDの電動バス
写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです

実際、BYDはその数年前から、日本のバス市場に進出していたのです。バスもまた、日本製EVが存在しない市場です。日野やいすゞといったメーカーは、これからようやくEV開発に取り組むという段階です。

そうした、日本車が弱い分野から、じわじわと中国車に侵食されている印象です。

「規格」にこだわらなければもっと安く作れる

【井上】佐川急便が調達する軽ワゴンEVはおそらく百数十万円くらいだろうと言われています。

佐川急便向けEVを作るのは柳州五菱という会社ですが、もともと三菱の軽自動車のコピーで台頭した会社です。さらに、格安EV「宏光MINI EV」を作っている上海GM五菱は、柳州五菱の兄弟会社です。そのため、安いクルマを作るノウハウがある。

実際には、車として粗削りな部分があったり、日本のユーザー独特のニーズにこたえられていない面もあったりするので、改善が必要な部分もあると思います。

【村沢】「宏光MINI EV」から学べることは多いですね。日本の軽自動車よりやや小型に作られているとはいえ、一番安いバージョンは補助金適用前の価格で46万円ぐらいです。

一方、日本車メーカーが今後投入する軽EVは、補助金を使っても200万円程度と予想されています。「軽」という「規格」にこだわらず、価格を下げることに特化すれば、もっと安く作れると思うんですけどね。