世界で進むEV(電気自動車)シフトの流れに、日本車メーカーは消極的だといわれる。なぜなのか。元東大特任教授の村沢義久さんは「『EVシフトは日本の自動車産業を破壊する』と言われるが、もはやそうした議論は意味がなくなっている」と警鐘を鳴らす。経済ジャーナリストの井上久男さんとの対談をお届けする――。(第1回/全3回)
給油中の手元
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「日本車敗北」の危機感が足りない

【井上久男氏(以下、井上)】村沢先生が出された『日本車敗北』(プレジデント社)ですが、興味深く拝読しました。本のタイトルではないですが、このままだと日本車が敗北してしまうというのは、私も同感です。また、その危機感が日本にはまだまだ足りないように思います。

【村沢義久氏(以下、村沢)】私の記事がヤフーニュースに載ると、「EVシフトは起こらない」「この著者の意見は間違いだ」といったコメントがたくさんつきます。かつてはそういう意見と議論していこうと思っていましたが、いまはもうやめてしまいました。

そういう人たちは、幕末の「攘夷論者」と同じで、考えが内向きになっていて、聞く耳を持たないからです。この『日本車敗北』という本では、「EVはダメだ」という意見はあまり気にせず、とにかく事実だけを書いたつもりです。

賛成派、反対派の「神学論争」になっている

【井上】いま日本では、あるメーカーに近い一部のモータージャーナリストらが、「EV推進反対論」を主張しています。もちろんそれに対抗する形で、一部に「EV推進論」があることも事実ですが。

しかし、もはやそうした議論に意味がなくなってきていると思っています。これは「神学論争」のようなもので、どちらが正しいか、現時点で結論は出ない。「EV反対派」にも一定の理屈があり、出してくるデータもまんざら嘘ではない。

ただ、カーボンニュートラルの流れと、DXの加速を背景に、世界はいま、産業革命の真っただ中に置かれています。これから内燃機関は新しい動力源にシフトしていくでしょう。そうした中、長期的な視点では、「EVシフト」に一日の長があるでしょう。

そのほうが、新たな産業が生まれ、国際的な競争力も高まるので、結果として国民の生活が豊かになるでしょう。

【村沢】あと、EVシフトには「脱炭素」という側面があります。国際社会のガソリン車規制はどんどん進んでいきます。そのため、EVが好きじゃない人でも、いずれはEVに乗らざるを得なくなると個人的には見ています。

一部のジャーナリストが、日本国内で何を言おうと、世界はそういう方向に進んでいるのです。あと数年たてば、「EV反対派」も、かなり少なくなるように思います。

本来、反対意見があるほうが、議論が活発になっていいのですが。ただ、建設的に議論しようにも、彼らは外の世界を知らなさすぎます。

「ユーザーはEVを求めていない」のウソ

【井上】日本の一部のモータージャーナリストは、「ユーザーはEVを求めていない」と言っていますが、それはウソじゃないかと思いますね。

実際、ユーザーはEVを歓迎しています。「脱炭素」とか、環境にやさしいという面が強調されがちですが、実際にEVを購入している人に聞くと、「EVのほうが面白い」「使い勝手がいい」と答えますから。

また、世界を見渡すと、車のスマート化が進んでいます。中国の小鵬汽車(シャオペン)のように、車のキャビンが映画館になるとか、そういった新しい体験を提供するEVが続々と登場しています。

若者たちが「EVのほうがかっこいい」と思うようになれば、ガソリン車中心の世の中は、あっという間に変わってしまうと思います。