内向き化する日本車メーカーの経営者

【井上】トヨタ自動車社長の豊田章男氏は、祖父豊田喜一郎氏を尊敬しておられるそうです。その豊田喜一郎が残した有名な言葉に、「障子を開けてみろ、外は広いぞ」がある。要するに、日本人は世界を見るべきだということです。

ただ、いまの日本車メーカーのトップは、世界を見ているでしょうか。

【村沢】私は豊田章男社長がアメリカに留学している時に、インターン先探しなどでお手伝いさせていただいたことがあるんです。また、日本に帰国されて、営業マンとして仕事を始められた時に、彼から最初に車を買ったのは私なんです。そんな縁で、結婚式にも呼んでいただきました。

お付き合いがあったから言うわけではないのですが、豊田社長ご自身は、英語も上手だし、海外にもよく行かれているし、非常に優秀な方だと思います。ただ、「トヨタの経営戦略」として見ると、世界が見えていないように感じるんです。

【井上】私も豊田社長は個人としての能力やセンスがある人だと思います。ただ、業界を代表する日本自動車工業会の会長をしているため、業界トップとしての見解と、トヨタのトップとしての見解とを使い分けているような感じもあります。

そのため、EVシフトすると仕事が減ったり、競争力が落ちたりする企業の意見もくみ取り、EVシフトに物申す、といったスタンスになっている気がします。

「生産技術」という日本の強みが負けはじめている

【井上】EVに関して豊田社長の言っていることは、かなり矛盾しているように思います。

【村沢】その通りですね。

【井上】豊田社長は、「EVシフト」は日本の自動車産業を破壊する、というようなことを言っておられます。ですが、世界のEV化に乗り遅れるほうが、日本の自動車産業にとって、致命的なダメージになるのではないかと思います。

たとえば日本メーカーの強みは、工場の生産技術にあったわけです。海外の高級車のようなスマートなデザインや、ブランド価値はなくても、工場がしっかりしているから、高品質な車を比較的安価で生産できていた。

しかし、その生産技術の点で、すでに日本車メーカーはテスラに負けはじめています。これまで約70部品を集め、ロボットで溶接して車体の一部を作っていた工程を、テスラはギガプレスという装置を開発し、まるごと一発で成型しています。テスラは派手な部分が注目されがちですが、実はそういう既存の自動車メーカーにない地味な技術も凄いんです。

自動車産業で働くロボット
写真=iStock.com/josemoraes
※写真はイメージです

「格安EV」が新興国の需要をかっさらっていく

【村沢】トヨタ流の「カイゼン」だとか、日本車の生産技術の高さはある意味神話化していますが、世界の技術はもっと上を行っていますね。

21年末に、トヨタは記者会見で「2030年にはEVの世界販売を350万台とする」と発表しました。この計画については「他のメーカーに比べると少ない」「総販売台数1000万台のわずか35%にすぎない」など、いろいろ言われていますが、私は、「そもそもトヨタの販売台数は2030年に1000万台を割っている」と予想しています。

また、「EVを350万台売る」のも、達成困難ではないかと思っています。