【井上】まだまだ自動車が普及していない地域もあるので、世界の自動車需要は今後増えるとは思います。ただ、その増加分のシェアをトヨタが本当に取れるかどうか。新興国では格安EVの需要が高まっています。
中国で50万円を切るEV「宏光MINI」が人気ですが、こうした車が新興国需要をかっさらっていく可能性はあると思います。
トヨタは本気で「EVシフト」するのか?
【村沢】トヨタのEVシフトの要因の一つとして、環境保護団体などからの「外圧」があると思います。
【井上】海外からどう見られているかは、かなり気にしているのだと思います。会見では実物のEVをたくさん並べたので、一部のメディアは「さすがトヨタ、もう実物ができている」と大絶賛したんです。ただ実際には、さすがに間に合っていなくて、半数くらいは張りぼてだったんです。
もちろん、2030年の計画を発表しているので、実車が間に合っていないことは別におかしくはないのですが、かなり焦って見栄えを整えようとしている、という印象は受けましたね。
【村沢】「外圧」を気にしているとなると、トヨタはさらにEVシフトを加速させるかもしれないですね。
【井上】社内には混乱もあるようです。堅実な社風なので、じゃあ具体的にどうやって電池を調達するかとか、そういう議論も起こっていると聞きます。
「毎日手を洗え」喜一郎の精神と反するのでは
【井上】ただ、実際にはすでにトヨタはEVシフトを進めています。
下山工場では20年1月にエンジンの生産ラインを2本から1本に減らしています。また、エンジンに絶対必要な「燃料噴射装置」は、これまでトヨタ、デンソー、愛三工業の3社にまたがっていましたが、今後は愛三工業に集約することになっています。このように、ガソリン車からEVへの切り替えを意識した動きは見られます。
トヨタの豊田喜一郎は「現地現物」と言い、技術者に「毎日手を洗っているか」と問いかけたそうです。つまり、技術者は現場に出て、手を動かせと言っているわけです。
EVも、実際に手を動かして作ってみないと分からないわけです。なのに、「部品メーカーが崩壊する」「電力事情でEV化できない」と言うのは、そうした豊田喜一郎の精神に反するように思います。