それにしても、である。コメとステーキしかメニューにない店のなにが、そこまでお客さんを惹きつけるのか。ヒントになるのが、コメトステーキを検索すると頻出する「二郎インスパイア系」という言葉だ。

二郎とは、全国に熱狂的なファン「ジロリアン」がいることで知られるラーメン店で、丼に小高い山のように盛られたもやしとキャベツや、一般的なお店の2~3倍近くと言われる麺の量に代表されるボリュームがひとつの特徴だ。

ジロリアンである大曽根はコメトステーキでもボリュームを重視した。メインディッシュのコメは200グラム、1ポンド(450グラム)のステーキに乗せるモヤシは150グラムあり、一食で総重量は800グラム。大盛りにすると、コメ、モヤシともに300グラムになり、総重量は1キロを超える。「ガッツリ食べたい」という満足感を満たすには十分だろう。

筆者撮影
大曽根さんが「コメの次にこだわっている」というモヤシ

「こだわり抜いたコメ」は元米穀店のプライド

券売機に「お肉に期待している方はステーキ屋さんへどうぞ」と記している、付け合わせ扱いのステーキに関しても、地道に工夫を重ねてきた。

オープン当初はスピードと効率を重視して一度に6枚の肉を焼いていたが、焼き加減がうまくコントロールできないとわかると、「お客さんを待たせてでも、少しでも良いものを出そう」と4枚に切り替えた。また、なるべく硬いところをお客さんに出さないように筋切りの仕方を変え、少しでも硬そうだなと思ったら、カットした状態で提供するなど試行錯誤している。

実家が近所にあり、地元に寄るたびに通っているという常連客に、「どんなところが気に入ってますか?」と尋ねると、「肉ですね」と即答した。

それを聞いた大曽根は「そこはコメって言ってくださいよ」と苦笑した。

筆者撮影
メインディッシュのコメ

メインディッシュのコメには、元コメ屋のプライドをかけて、徹底的にこだわっている。主に使用しているのは、会津のコシヒカリ。コメ屋の時から「値段の割に、めちゃくちゃおいしい」と感じ、顧客にも勧めていたものだ。

コメを炊く時には、コメ屋時代に顧客に「おいしいコメの炊き方」としてアドバイスしていたように、「研ぎ過ぎない」「炊く前に水にしっかり浸す」「水もコメもグラム単位で計量する」「炊き上がったらほぐして余分な水分を飛ばす」という基本を厳守。さらに、炊いた後の保温状態が1時間も経つととおいしさが失われるため、どんなに忙しくても少ない量をこまめに炊いている。