店の改装は進んでいるのに肉の当てがない……という大曽根を救ったのは、またも友人ネットワーク。テニススクールの仲間が、肉の卸業者をしていたことを思い出した。連絡をすると、アメリカ産牛肉を破格で卸してくれることになり、ピンチを脱した。

飲食店経営のセオリー無視、というより、セオリーを知らない大曽根は、大胆な決断にも躊躇がない。スタッフを雇わず、ひとりで運営している國分さんに倣って、開店後のオペレーションもひとりでやることに決めた。

「凛はラーメンのおいしさに加えて、空間が素晴らしいから、お客さんが絶えないんだと思います。一人であの杯数をさばいているラーメン屋って、ほかにないんじゃないかな。それでも、お店はいつもきれいで、接客も心地いいんですよ。その國分さんに『ひとりでやるからこそいいんじゃない、なんとかなるよ』と言われて、僕もそうすることにしました」

提供する1ポンドの牛肉
筆者撮影
牛肉は友人の卸業者から格安で仕入れている

「二郎インスパイア系」ステーキと評判に

2019年12月1日の日曜日、メインディッシュがコメ、付け合わせが1ポンドステーキというコンセプトの「コメトステーキ」のオープン。当日は、友人、知人、恩人などが100人ほど駆けつけ、てんてこ舞いになった。

國分さんや國分さんの妻も応援に駆けつけてくれたが、片付けが終わったのは夜中の3時。翌日からは、ひとりですべて担わなければならない。飲食店で働いた経験がなきに等しい大曽根にとって「この調子で続けていけるのか……」と不安になる船出だった。

その不安は的中した。12月半ば、コメトステーキに来たお客さんのツイートがバズり、1万を超える「いいね」がついた。その翌日の水曜は定休日で、迎えた木曜日、開店前から長蛇の列ができていた。最後尾に並んでいた人が食べ始めるまでに、なんと3時間かかったという。それから半月ほど同じような状態が続き、「本当に死にそうになりました」。

ボリュームまんてんの牛肉
筆者撮影
ボリュームまんてんの牛肉

年が明けてしばらくすると新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、多くの飲食店は打撃を受けた。しかし、コメトステーキはそれほど大きな影響はなかったそうだ。ひとりで来て、黙々と食べて帰るというラーメン店のような作りにしたのが功を奏したのである。筆者が取材に行った土曜の夜にも並んでいる人がいたように、3年目の今も盛況が続いている。

「7~8割は常連さんですかね。女性ひとりのお客さんや子供連れのお客さんもいます。週4から週5くる方もいますよ(笑)」

ステーキに大量のもやしをトッピングする大曽根さん
筆者撮影
ステーキに大量のもやしをトッピングする大曽根さん