「欲望」に仮説を寄り添わせてはいけない

【岩田】ただ、断定はできないものの、「自分の欲望に仮説を寄り添わせてはならない」というのは大事な態度です。多くの人が自分のあからさまな、あるいは隠れた欲望を持っていて、その欲望を満足させるような意見を「科学的な正しさ」という意匠をまとわせようというややこしい議論を展開し、それを「理路」と勘違いしています。自分のあからさまな、あるいは隠れた欲望に自覚的でいるのはとても大事で、その欲望にむしろ抗ってデータを解析しなければならない。

内田樹・岩田健太郎『リスクを生きる』(朝日新書)

専門家でも「早くコロナが収まってほしい」という欲望を持っている人もいるし、もしかしたら「コロナで大騒ぎしてる間に、俺様のプロとしてのプレゼンスを高めたい、出世の道具にしたい、有名になりたい」という欲望、野望を持っている人もいるかもしれません(自分ではそうと認めないでしょうが)。

前者が出しがちな、「コロナは風邪みたいなもの」という正常性バイアスや事なかれ主義な態度もよくないし、「コロナで人類が滅びる」「第X波で何人死ぬ!」みたいな扇動的な態度もよくないです。かといって、そうした論調にクールに斜め上な批評を加え、茶々を入れ、冷笑的な態度でかっこよく振る舞いたい、という欲望も、同様に欲望ベースの態度なのでよくありません。

 

残念ながら「コロナは風邪みたいなもの」ではない

【岩田】「コロナなんて風邪みたいなものだから、何にもしなくていい」という考え方が多くの支持を得るのもわかります。本当にそうなら、そのほうがいいに決まってる。僕自身は、自分の生活が落ち着いていてほしいし、私生活のあれやこれやも楽しみたいです。端的に申し上げれば、サッカー・スタジアムで大声を上げ、ちゃんと歌って応援したい、と強く思います。コロナなんてどうでもよい、日常生活を普通に送ればいいよ、と言えるものなら言いたい。

ついでに言えば、感染症をネタに出世の道具に使うとか、有名になる道具に使うとか、そんな欲望は僕のなかではけっこう、希薄なのです。そういう欲望が強ければクルーズ船でも官僚や政治家に忖度そんたくして、彼らをヨイショしていたでしょうし、自分が観ないバラエティなどのテレビ出演の依頼も全部お受けしていたでしょう。

いずれにしても、残念ながらコロナは風邪みたいなものではありません。クルーズ船の感染対策は間違っていました。それはデータを見れば明らかなので、それがたとえ僕の欲望に反していても、仕方のないことなのです。専門家もそうでない人も、まずは自分のコロナに対する態度、隠れた欲望に自覚的になることが大事だと思いますね。

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