「正解」を求める人ほど簡単に騙される

【内田】同感です。僕も時事問題で講演することがありますが、最後に聴衆の方からの質疑応答になると、「内田さんはそう言われるけれど、じゃあ、私たちはこれからどうしたらいいんですか」とよく訊かれます。ほんとうに「正解」を求めて訊いている人もいますけれど、たいていは批判的なスタンスからのものです。「だから、あんたの言いたいことを一言で言ってくれよ」という要求に批評性があると思っている。そう問いかけられたほうが「一言」で答えられないと「勝った」という気分になるらしい。

あげている手
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この人たちはたぶんどんな問いにも一言で言い切れる「正解」があるべきだと信じているんでしょう。だから、「正解」を一言で言えない人間の話は聴くに値しないと思っている。逆に言えば、「ずばりこれが正解です」と言い切ってしまう人の話には無批判に耳を傾ける。だから、こういうことを言ってくる人って、懐疑的な人のように見えますけれど、そうじゃない。「問いには即答すべきだ」「一言で正解を言い切れることが知的であるということだ」と信じているだけなんです。こういう人が簡単に騙される。

科学の世界に「断言できる正解」はほぼない

【岩田】一言で断言できちゃうタイプが、テレビの人気コメンテーターだしユーチューバーなんでしょう。悲観論でも楽観論でもどちらでもいいから断言してほしい。大多数のそんなニーズがあるんだと思います。例えば僕が「第5波はなぜ急に収まったんですか?」とか、「オミクロン株はこれからどうなるんですか?」と訊ねられたら、解明できない側面がいくつもあることを前提にした答え方になります。ツイッターなどでよく「岩田の言っていることは結局よくわからない」と批判されますが、わからないことについては断言すべきではないというのが僕のスタンスです。

【内田】この対談シリーズの初回でも、「急激な収束の理由はわからない」と岩田先生は言われましたね。

【岩田】急速に減る理由は「仮説」としていくつかは出せるんです。そして、「これは違う」と除外できる「間違った仮説」も容易に指摘できます。が、「これこそが原因」と断定できるものはなかなかない。一般に科学の世界において「これが正しい」と断言できるものは、ほとんどないんです。仮にそれが「かなり、正しい、可能性が、高い」と思っていても、信じていても、数十年後にそれが間違いとわかることも珍しくはありません。