オスなら1分、メスなら10分以内で手術を終える早業

前回の記事で今年1月、茨城県で野良猫に不妊去勢手術を行なっている様子を取材したと記した。毎回、獣医師2人で1日に40~60匹の野良猫の手術を行うのである。当日手伝っていたボランティアの方々は「齊藤先生でなければできない」と口にしていた。

「飼い猫なら手術後にゆっくり療養できますが、野良猫は手術の翌日に元の場所にリターンします。この先も野生で元気に生きていけるように、猫の身体に負担なく手術を行わなければなりません。しかも、大量の猫がいますから、一頭にそれほど時間をかけられず、10分程度でやってくださる技術が必要なんです」(ボランティア)

齊藤獣医師とともに奮闘する、青山千佳獣医師も「齊藤先生の手術はとにかく早くて、傷口も小さいと獣医師仲間では評判だった」と話す。

撮影=笹井恵里子
手術をする獣医師の青山千佳さん

取材時に齊藤獣医師による手術を何匹も見学させてもらったが、本当に速い。オスなら1分、メスの場合も10分以内だ。一般的な動物病院なら、メスの不妊手術といえば5〜10センチ程度開腹して、子宮を探りあてて摘出するのが通常だ。だが齊藤獣医師の場合、傷口は1センチ程度。そこから子宮を吊り出す、耳かきのような器具が入れて、まるでそこにあるとわかっているかのように腕を動かす。

「子猫は再生力が強いから、3日もあればきれいになる」

「大きく切れば獣医師としては見やすいのでしょうが、縫合に時間がかかりますし、麻酔の量もたくさん必要になる上、猫にも負担がかかります。ですから傷口はできるだけ小さく、出血も少なくなるように、というのを意識しています。野良猫は後日抜糸の機会もありませんから、縫合はいずれ溶ける糸を使っています。時間が経つと、外からは手術したのがわからないくらいになるんですよ。子猫だったら再生力が強いですから3日もあればきれいになります」(齊藤獣医師)

機械に頼らず、たくさんの“飼い主のいない猫を診る”のが、齊藤氏の獣医師としてのプライドなのだと感じた。

「飼い猫には、人間と同じように執刀医、助手、看護師さんがいて、心電図をつけながら手術するクリニックもあります。でも、それだと人手が必要ですし、停電になって機械が使えなくなったらアウトでしょう。モニターに頼らなくても心臓の音は確認できるし、血圧がはかれなくても脈に触れればわかります。私は自分のクリニックにも検査機器はあまりないんですよ。まあお金がないだけなんですけど」

と、照れたように笑った。