「みなし陽性者」には薬の投与が想定されていない

ただこの「不利益の意味するところ」を理解できないとする答弁によって、岸田政権はまさに地雷を踏んだと言えよう。逃げ答弁のつもりが、国民に生じうる不利益について岸田政権として何ら意識していないことを明言することになってしまったからだ。この答弁は岸田政権の無責任体質の動かぬ証拠として、多くの国民で共有しておくべきだろう。

懸念される事態は枚挙にいとまがない。いったん「みなし陽性」とされた人の症状が日に日に悪化した場合、これも非常に心配だ。医療機関に再診させその場で初めて検査するとなれば、その間に費やされた時間はムダだったことになる。抗ウイルス薬を投与するにも、タイミングはとうに過ぎていることだろう。答弁書でも抗ウイルス薬を投与する場合は「検査を実施することは当然に必要」との見解を示している。つまり「みなし陽性者」には、そもそも抗ウイルス薬の投与は想定されていないということだ。

治療薬といえば、現在使用可能な薬剤は数種類あるが、ウイルスの株によっては効果が期待できない薬剤もある。そもそも感染者がデルタ株なのかオミクロン株なのか、最前線の現場で治療にあたっている診療所医師には知らされない。まさに手探り状態だ。そこに今回、変異株の種類どころかコロナウイルスかどうかも定かではない「感染者」が計上されていくことになる。

今後いずれかの国で新たな変異株が出現した場合、わが国にいつ上陸してきたのか、どのくらいのスピードで前の株に置き換わりつつあるのか、そして新薬が出てきた場合もその新株に効果が期待できるのか、わが国だけがコロナとの闘いにおいて世界から取り残される危険性も否定できない。

すでに「みなし陽性」の取りこぼしが発生している

後遺症はどうなる。検査による確定診断がつけられていない「みなし患者」が、急性期症状はおさまったものの、後遺症を否定できない症状の遷延に悩まされた場合、救済されるだろうか。残念ながらその可能性はほぼゼロだろう。その時点でPCR検査をしてもすでに検出されないだろうからだ。「気にしすぎ」とか「コロナ脳」といった心ない言葉を投げつけられて泣き寝入りとなることは目に見えている。

実はすでにトラブルは発生している。先日、私の勤務する医療機関が所属する地域医師会からファックスが入ったのだが、この「みなし陽性」とされた人について医師から発生届け出が出されておらず、保健所で患者の把握ができない事例が複数確認されたというのだ。「みなし陽性者」の取り扱いについて熟知せぬまま診断している現場の医師が存在するということであれば事態は深刻だ。この「みなし陽性者」が「真の感染者」であった場合、置き去り放置とされていることになるからだ。