新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者となる同居家族に発熱などの症状が出た場合、検査なしで医師の判断によって感染者とみなす「みなし陽性」が一部の自治体で行われている。医師の木村知さんは「これはまっとうな診断法ではない。患者にとっても、医療機関にとっても、混乱やトラブル、負担を増やす愚策であることは明らかだ」という――。
医療相談室の医師と患者
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季節性インフルエンザでは日常的におこなわれてきた

オミクロン株の急拡大によって、岸田政権はこれまでの新型コロナに対する検査、診療体制を大きく変える決定をおこなった。「検査をおこなわなくとも臨床診断で新型コロナウイルス感染症と診断してよい」とするいわゆる「みなし陽性」を認める方針変更である。

これはPCRもしくは抗原検査という、客観的に判断できる方法によって診断していたこれまでの方針を根底からひっくり返すものだ。この方針変更は私たちにいかなる影響を及ぼすのか、本稿ではこのいわゆる「みなし陽性問題」について考えてみたい。

現在、新型コロナウイルス感染症は感染症法上では新型インフルエンザ等感染症という位置づけとなっており、入院勧告や外出自粛要請、就業制限といった厳しい措置が可能となっている。またこのカテゴリーに該当する感染症を診断した医師は、保健所に直ちに届け出を行う必要があるため、その感染者数は原則全数把握されることとなる。

この感染症法上の位置づけを緩和して季節性インフルエンザと同等の5類感染症とすべきという意見がある。その是非については2月2日配信の拙稿「コロナでは休めない社会になるだけ……現役医師が「5類引き下げには大反対」と訴えるワケ」を参照していただきたい。「検査をおこなわなくとも臨床診断で感染者とする」との診断法は、これまで季節性インフルエンザに対してわれわれ臨床医が日常的におこなってきたものであるため、今回の「みなし陽性」は、診断の部分において新型コロナを季節性インフルエンザと同じ扱いにしようとするものとも言えよう。

「検査結果は絶対ではない」が常識

おそらく多くの方々は「季節性インフルエンザでも迅速抗原検査をおこなっていたではないか。そしてその検査結果によってタミフルやリレンザといった抗ウイルス薬が処方されていたではないか」と思われることだろう。もちろん“検査して処方”という型通りの診療をおこなう医師も少なくなかった。

だが拙著『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)にも書いたとおり、“検査結果は絶対ではない”というのがわれわれ実地医家の常識である。特に臨床症状はインフルエンザとの診断で矛盾がないか、むしろそれ以外の疾患は考えられない場合に、検査結果が陰性だからといってインフルエンザではないと診断することは、危険な誤りだとわれわれは考えている。