なぜ「しのぶ会」で、祭壇の写真に花を投げたのか

そんな新庄が、古巣である日本ハムの監督、いや「ビッグボス」になるのである。改めて、「野村さんなら、どんな感想を持つのだろう」と、ついつい考えてしまうのである。

ヤクルト・高津臣吾監督が就任した際には「最下位チームを引き受けたのだから失うものは何もない。思い切ってやればいい」と言葉を送った。新庄に対しても、「お前の個性を生かして好きにやればいい」とでも言うかもしれない。

21年12月11日に行われた「野村克也さんをしのぶ会」に参列した新庄は、生前の野村が愛用していたヴェルサーチのジャケットに身を包んでいた。息子・克則から譲り受けたものを6万円かけて自身のサイズに仕立て直したのだという。

そもそも、野村がヴェルサーチを愛用するようになったのは新庄が着ていた姿を見て、「カッコいい服やな。それはどこの服なんや?」と口にしたことがきっかけだったという。

師の匂いも、中華料理のシミも残るジャケットをまとい、献花の際には「キャッチャーだった野村さんに受けてほしかったから」という理由で、祭壇に飾られた野村の写真に向かって花を投じた。そこには「かつて二刀流もしたから」という思いも込められていた。会が終わった後の囲み会見で、新庄はこんな言葉を残している。

「新庄剛志らしく、野村さんに教えてもらったことをやりつつ、新しい監督像を作りたい。野村さんも監督像を作られた方なので、野村さんとはまた違う形だけど、いいチームにして、いいシーズンでしたと報告したい」

2人が交わした最後の約束

生前の野村と新庄が最後に対面した際に交わされた言葉があるという。

「おい新庄、お前だけは、オレがこの世を去っても笑顔で見送ってくれ」

野村克也『野村克也全語録』(プレジデント社)

この日、新庄はその約束を守った。天国の野村は、「いかにもお前らしいな」と笑っていることだろう。

21年ペナントレースは、同じく野村を師と仰ぐ高津臣吾監督率いる東京ヤクルトスワローズが日本一の栄光を手に入れた。阪神タイガースの矢野燿大、東北楽天ゴールデンイーグルスの石井一久、埼玉西武ライオンズの辻発彦。野村の教えを受けた「野村チルドレン」が、昨年に引き続き指揮を執る。今季からはそこに新庄ビッグボスも加わる。

プロ野球ファン、関係者にとって2度目の正月となるキャンプインを迎え、早くもはやる気持ちを抑えられない。球春到来、こんな時代だからこそ、「野村の教え子」たちによる新時代のプロ野球の訪れを心から喜びたい。

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