「自宅で命尽きたのは良かった」と思えるようになった
夫が亡くなって1年半——。今、改めて当時を振り返って妻はこう言う。
「一日一日が良くなっていけば楽しみがあるからいいけれど、看取りは命がどんどん縮まっていくから。それを見るのはつらかった。ただね、本人がどうしても家に帰りたいと言って、自分のおうちで命尽きたのは良かったことだったと思えるようになりました」
同じ大腸がんだった兄は最期まで苦しみ、「死にたい、死にたい」と言いながら病院で亡くなった。それに比べて夫は痛がったり苦しんだりすることがほぼなかったのだ。
家族の人数が少なく、まして前妻の子との同居だったため、皆で協力するという体制が作りづらかった面があったかもしれない。
市川さんの妻は元気で前向きな人だ。今、84歳というが、60代といっても通るほど見た目が若い。私がそう言うと「でも介護をきっかけに膝も腰も、全身がぼろぼろなのよ」とつぶやく。
「寂しいですか?」と私がたずねると、「そうね。うるさい人ほど静かになって寂しいかもしれない」と少し笑った。
「でも、これからは自分の頭がボケないようにデイサービスに行ったり、ジムにいって体を鍛えなきゃ。英会話の勉強もしたいのよ」
そう凛と話す。全力で介護したという気持ちがあるからこそ、前を向けるのだろうと感じた。(続く。第10回は1月23日11時公開予定)