すぐに入院し、大腸がんの切除手術を受けることに
「先生、(がんの診断は)間違いではないんでしょうか」
夫がなおもそうたずねる。
「間違いなら間違いでいいですから、とにかく2日後に大学病院(A病院)に行ってくださいね」
診療所からの帰り道、動揺を隠せない夫は「ヤブ医者だ」とぶつぶつ言っていたという。
「2日後の受診日の朝も『俺は大丈夫だから行かない』って駄々をこねて。私は『先生が紹介してくださったのに、ご迷惑をかけてしまう』と言いました。それでも動かないので、娘が『なんでもないなら、それはそれでいいじゃない。とにかく行ってきなよ』と説得してくれました」(妻)
実は市川さんは50代で前妻を亡くし、60歳の定年間近に現在の妻と再婚した。市川さん、再婚した妻、前妻との娘の3人暮らしだ。
紹介を受けたA病院を受診したが大腸がんの診断は変わらず、夫はすぐに入院し、がんの切除手術を受けた。
どんなに食べても、だんだんと痩せていった
「手術後、医師から切除した大腸を見せてもらいました。がん細胞が点々とありました。お医者さんからは『本人は元気そうに見えるけど、相当進んでいますよ』と説明がありました。でも主人は本当に元気だったんです。1カ月くらい入院すると、『家に帰る』と言い始め、お医者さんも『大手術をして、これほど元気な患者さんははじめて』と驚くくらいの回復でした」
しかし自宅に戻ったものの、夫は手術で「人工肛門」になってしまったため、そのケア(ストーマケアという)に苦しんだ。人工肛門は、腹部に造られた人工肛門部に袋(パウチ)を貼り、そこに自然と便がたまっていく仕組みだが、パウチがずれたり、うまく取り換えられないと、水滴(便)が流れ出てしまう。人工肛門には肛門括約筋がないため、排ガスや排便を自分でコントロールできない。
「パウチが1枚1100円くらいするのですが、最初の頃はそれがうまく貼れなくて、何度も貼り直して……。人工肛門にパウチの中央を合わせて、周りの皮膚にしっかり密着させないとダメで、1ミリでもズレるともれてしまう。しかも主人がすっごく食べる。そして食べているとパウチがどんどん膨らんでいく。交換のタイミングが難しくて、いつもパウチを見ていたような感じでした。専門職の方に家まで来てもらって指導してもらったり、主人も時々病院で教えてもらったりして、だんだん覚えていきました」
夫は自宅で過ごしながら、抗がん剤治療のため病院に通う日々が続いた。しかし副反応らしいことは全くなく、誰が見ても「この人が病人?」と驚かれるほど元気だったという。
「食欲も衰えなかったですし、抗がん剤治療も苦しまなかったから最後まで続けられました。ただ、どんなに食べてもだんだんと痩せてはいきましたね」