80歳を超えた妻が、夫のオムツを換えて、着替えさせる
時折、夫が「明日、太陽が見られるかな」と弱気な声でつぶやき、妻が「やっぱり生きていたいのね?」と聞くと、「生きていたい」とはっきり答えるからだ。通常のごはんづくり、洗濯などの家事に加えて、夫の食事の介助や体拭き。ストーマ交換の手伝いや、ストーマから水分が漏れて周囲が汚れれば、パジャマを着替えさせる。夜間だってストーマの交換が必要になる時もある。もちろんオムツ交換もある。80歳を超えた妻にとって、それらはどれほどの重労働だろうと思う。
「よく介護疲れで殺人事件が起きたりするでしょう。ああいう気持ち、よくわかるんです。患者も介護者もとにかく余裕がない。よく本やドラマではかっこよく描かれていますが、『看取る』ことがどれほど大変か……特に家族の人数が少なくて、二人とも高齢で」(妻)
「旦那さん、今、息を引き取りました」
最後の会話は、死の3日前のことだった。
妻が夫の身の回りの世話をしていると、突然「手をにぎっていい?」と尋ねられたそうだ。
「どうしたのよ。この年になって……」と妻は苦笑いしながら、「いいわよ」と両手を差し出す。夫はその手をぎゅっと握りながら「悪いな、悪いな、こんなに迷惑かけて悪いな」と口にした。
「夫婦だから、別にいいのよ」
とはいっても、最後の数日は妻の心身は限界に達し、徐々に寝床から起き上がれなくなったという。そのため、24時間の介護サポートをお願いした。夜22時から朝7時までのサポートは1日2万円以上かかるため、それまで夜間だけは頼まなかったのだが、もはや誰かの手を借りなければ日常生活を送ることが不可能だったのだ。
ある日の明け方、2階で就寝していた妻の部屋のドアをトントンとノックする音が。「どうぞ」と妻が言うと、数日前からお願いしていた24時間の介護サポート者がそこにいた。
「旦那さん、今、息を引き取りました」
「えっ……」
妻は最期を看取れなかったことに絶句したが、その方に「眠るように亡くなりました」と告げられて、安堵したという。