「コロナ禍では看取り目的の訪問看護が増えている」
自宅で死ぬときには、訪問看護をお願いするケースが多い。訪問看護とは看護師が患者宅に訪問して、その患者の障害や病気に応じた看護を行うこと。健康状態の悪化防止や回復に向けた措置のほか、主治医の指示を受けて点滴・注射などの医療措置や痛みの軽減、服薬管理なども行う。
兵庫県豊岡市で訪問看護ステーション「ひかり」を営む、訪問看護師の小畑雅子さんの元を訪ねた。
聞けば「コロナ禍では看取り目的の短期集中型の訪問看護が増えている」という。
「病院では“10分だけ”などの面会制限があって、『最後くらいはおうちに帰りたい』とご本人や家族が希望し、病院側も『希望されるなら……』と退院を支援されます。ただ、看取りが近いとされていた老衰や認知症の方の場合は、家に帰ったら案外元気になってしまって、“最期”にならなかったりもしますが(笑)」
多発性肝がんで、実父を65歳で看取った
小畑さんは患者や家族によく話しかけ、ともに涙ぐみ、笑い飛ばす、柔らかで温かな女性だ。私が取材した中で「在宅看取り」がうまくいかなかったケースを話すと、「患者の苦痛が強いときには、家で上手に緩和できる体制であるかが重要です」と、説明してくれた。
「例えばがんの末期でも本当に穏やかに逝ける場合もありますが、がんの病状によっては最期にもがくように苦しまれる方がいます。私の義兄もそうで、即効性のある経口麻薬が服用できず、緩和が難しかった経験があります」
小畑さんが訪問看護師として在宅療養を支援しようと思ったのは、27年前、実父の正彌さんの死がきっかけだった。正彌さんは、原発不明の多発性肝がんのため、65歳で亡くなった。本人に病名は知らされなかったが、死の間際に正彌さんは「わしの病気はどうもやっかいみたいや」と口にしたという。
「私が初めて父の病気に気づいたのは正月に帰省した時でした。『ここ(肝臓)が腫れるのはおかしいんか?』と父に聞かれたんです。外からふれると、硬く大きなものがあってショックで。翌日、病院でがんと判明、今日明日に何かあってもおかしくないと言われました。母は肝臓にたくさんの腫瘍があるCTを見せられて“もうアカン”と思ったそうです」