新型コロナは看護師への負荷が高すぎる
【原田】昨年、渡辺さんはGHCの社長であるアキよしかわさんとの共著『医療崩壊の真実』(エムディエヌコーポレーション)という本を上梓されました。この本の中で、日本は急性期病院や病床数が多すぎると指摘されています。
そして、新型コロナウイルスで日本の病床が不足しているという報道がありましたが、実はベッドは余っていた。足りなかったのは医療従事者であったと。
【渡辺】新型コロナウイルスの重症患者をICU(集中治療室)で受け入れる場合、集中治療専門医、救命救急医が必要です。中等症には、感染症内科医、呼吸器科内科専門医も必要です。
加えて、コロナ中等症では通常の患者に比べて2倍以上、重症患者では6~7倍ほどの看護師のケアが必要です。
【原田】新型コロナウイルス対応は、看護師への負荷が大きいんです。
【渡辺】日本の人口当たりの看護師数はOECD(経済協力開発機構)の中で上位8位と高い水準。しかし日本は病院・病床が多すぎて、医師や看護師が分散し低密度医療になっています。
そこをコロナが襲った。医療提供者が薄く分散した医療提供体制では、コロナのような医療需要が急増する「何か」があればすぐに受け入れができなくなってパンクしてしまう。
【原田】渡辺さんは、本の中で急性期、そして回復期や慢性期の病床機能をきちんと区分して活用することが課題とも書かれていました。
【渡辺】急性期の状態を脱した患者さんは、すみやかに回復期、あるいは慢性期の医療機関に移すべきなんです。ところが日本の場合、急性期の病院が、回復期や慢性期も扱っている。
すでに治療が終わった患者さん、急性期を脱した患者さんが急性期病床で入院し続けているというケースが少なくない。
【原田】確かに、合併症のおそれがある年配の患者さんは、術後の入院が必要なこともあります。しかし、若い患者さんは、ぱっと手術してすぐに帰りたい。自分の生活に戻りたいから入院したくないという声を良く聞きます。
【渡辺】OECD平均の急性期入院日数は約7日。しかし、日本は16日。DPC制度の中で、急性期度の高い病院のデータだけ取りだしてみると、11~12日くらいです。
本来は急性期病床に適切でない病態の患者の入院がある、という事を示唆しています。患者さんのためではなく、病院側の経営のための入院が少なくないということです。
自分たちの病院を守る「アワ・ホスピタル」という概念
【原田】ところで、とりだい病院では10年後に新病院への移転を考えています。新病院はIT技術を駆使したスマートホスピタルとします。また、新病院と同じビルに宿泊施設を誘致する案もあります。手術が終わった後、ホテルから外来に通っていただく。
【渡辺】DPC制度からみれば、患者さんを宿泊施設に出すというのは、経営上はマイナスです。しかし、患者さんにとってはプラス。
病院よりもホテルの方がサービスが手厚いでしょうから、楽に過ごせる。大学病院が提供する質の高い医療サービスにつながり、長期的に考えれば、プラスになる。
【原田】渡辺さんに褒めていただいた、看護師たちの患者中心のホスピタリティ(もてなし)も、とりだい病院の強みになると思っています。
【渡辺】10年後のスマートホスピタルが楽しみです。(首を傾げながら)ところで、そのとき原田先生は、とりだい病院にいらっしゃるんですか?
【原田】ぼくの任期はあと1年強、絶対にいません(笑)。
【渡辺】低侵襲外科センターを立ち上げた北野先生もそうですが、原田先生も、自分がいなくなった後のとりだい病院のことを考えておられる。これが驚きです。
看護師さんの、とりだい病院愛とも通じますが、次の世代のことを考えるというのが、この病院の一番の強みかもしれません。さらに私から提案させていただけるとすれば、「アワ(our)ホスピタル」という概念です。
【原田】アワ・ホスピタル? 私たちの病院という意味ですか。
【渡辺】アメリカなどでは、住民は地域の病院を「アワ・ホスピタル」と非常に大切にしている。大勢のボランティアの方が各フロアにいて、患者さんを案内、車いすやカートを押したりして、非医療行為を提供して、病院を助けています。
キリスト教文化圏であるアメリカはもともと、ボランティア活動が盛んです。それに加えて、自分たちの病院だから、守らなければならないという意識が強いのです。
【原田】とりだい病院でもボランティアの方がたくさんおられます。さらにお手伝いをしていただける方を増やそうとしていたときに、コロナ禍でストップしてしまった。新型コロナウイルスが一段落したら、アワ・ホスピタルに向けて、動き出しますね。