「病院コンサルティング」という仕事の中身

【原田】ところで、ほとんどの読者は、渡辺さんのお仕事、病院コンサルティングという仕事になじみがない。まずどのような仕事なのか、説明してもらえますか?

鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 9杯目』
鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 9杯目』

【渡辺】そうかもしれませんね。現在多くの急性期病院ではDPC(Diagnosis Procedure Combination)という診療報酬(※)の包括評価制度を導入しています。

このデータを見れば、患者さんに、どのような診断、治療やケアを行っているのか分かり、同じ疾患で他の病院とのベンチマーク(比較)が可能です。

私たちは、とりだい病院など25から30の大学病院を含む、最大800病院の医療のビッグデータを用いて、病院の増収対策やコスト削減、地域医療構想下のビジョン・戦略の策定や病院統合再編まで、どのように医療の質を上げ、経営を改善していくかをコンサルティングしています。

※保険医療機関等が行う診療行為やサービスに対する評価として公的医療保険から支払われる報酬

【原田】ビッグデータの解析、つまり、これまで見過ごされてきた膨大なデータ群の解析は医療のみならず、様々な分野で重要視されています。データから見ると、とりだい病院はどのように映っていますか?

【渡辺】やはり急性期の高度治療の象徴であるロボット(支援)手術を先進的に進めてこられてきたことでしょう。釈迦に説法になりますが、ロボット手術は身体に小さな穴を空ける、身体への負担が小さい低侵襲性手術。手術中の出血量が少なく術後合併症の発生率も低い。

そのため一般的な開腹手術と比較すると、患者さんの離床が早く、より早く退院できます。とりだい病院は、ロボット手術を真っ先に導入して、実績を積み上げていることが目につきました。

診療科の垣根を崩した「低侵襲外科センター」

グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン代表取締役社長の渡辺幸子氏
撮影=中村治
グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン代表取締役社長の渡辺幸子氏

【原田】確かに、真っ先でしたね。

2011年に当時の病院長の北野(博也)先生が『低侵襲外科センター』を立ち上げたとき、保険適用として認められていたロボット手術はありませんでしたから。

【渡辺】えっ? その時点では保険適用が認められなかったんですか? そうなると患者の負担が大きくなりますよね。

【原田】子宮摘出で50万、前立腺がんだと80万から90万円です。

【渡辺】通常の開腹手術や腹腔鏡手術ならば保険適用。回復が早いからといって、わざわざロボット手術をするために高いお金を払う人がいらっしゃったんですね。

【原田】(大きく手を振って)いないです。そのため、最初の10例については病院が手術費全額を出しました。患者さんの持ち出しはゼロ。その後は、ロボット手術の場合、患者さんに一定の割合のみを払ってもらうというかたちにしました。

【渡辺】差額を病院が補填したわけですね。そこまでとりだい病院が、ロボット手術にこだわった理由はなんでしょうか?

【原田】ロボット手術は低侵襲で、患者さんの身体の負担を減らすことになる。ロボット手術への保険適用の範囲が広がっていくことは予想できました。このロボット手術を病院の強みにしたいと北野先生は考えたのです。

【渡辺】病院のコンサルタントとして興味を持ったのは、低侵襲外科センターには各科の医師が参加していること。執刀医師は手術前に手術時間、出血量を申告しなければならない。

そして、その数値のチェックを他の科の医師が担当する。申告された手術時間、出血量を超えた場合は、チェックする医師が手術中止命令を出せる。

【原田】ぼく自身の経験でもあるんですが、執刀している医師は、なんとか患者を救いたいという思いが強い。手術中、状況が多少悪くなっても、あと少しでなんとかなる、なんとかしたいと視野狭窄になりがち。

特にロボット手術で安全を担保するには、冷静な外部の視点が必要となります。チェック役の医師は手術前のカンファレンス(打ち合わせ)に参加して、手術内容を把握している。その人間が手術を停める権限を持てば、医療事故は限りなく減らせるという考えです。

【渡辺】手術をガラス張りにすることは理想です。しかし、さきほども触れたように、医師は、専門外の医師に口を挟まれることをよしとしないのではないですか?

【原田】その通りです。例えば、外科の手術をやっているとき、婦人科のぼくが「これ以上やめとけ」って言うわけです。普通は受け入れないですよね。

【渡辺】医師たちをどのように説得したのでしょうか?

【原田】(微笑みながら)みんなロボット手術をやりたかったんです。低侵襲外科センターが立ち上がったとき、ロボット手術は日本ではほとんど普及していなかった。そこで私たちはロボット手術をやるならば、このルールを守りましょうと決めたんです。

【渡辺】医師たちの先端技術に対する興味、向上心をうまく活用されたわけですね(笑)。