テレビの演出は都市住民のマイナスな農業観の裏返し

しかし、それは一時的なものでしかありませんでした。都市と農村では、農業に抱くイメージが全く異なっていたからです。テレビ番組で放映される農業には、過剰な演出が加えられていました。ゆっくりとした時間が流れる自然の中で、晴れの日には外に出て畑を耕し、雨の日には家の中で蕎麦を打つ。実りの秋には豊作を祝い、ご近所づきあいも楽しく、気の良い仲間たちが集まって酒盛りをする。農家でさえ憧れてしまうような素敵な生活です。

実際の農業はそんなものではありません。特に真剣に農業に打ち込む人であればあるほど、大変な労働をしています。値段が安いのに高品質な野菜を作るために手間をかけていれば猶更です。

このような演出過剰なロマンチックな農業イメージは、都市住民にだけ影響を与えたのではありません。農家の側も農家の本質的な働き方をようやく社会が認めてくれるようになった結果ではないか、というある種の希望をもって受け止めました。これが不幸の始まりでした。農家へのイメージの好転は、実際には都市住民の持つマイナスな農業観の裏返しに過ぎなかったからです。

農家が農業を通して仕事に自信を持ち、高い収入を得、社会から尊敬される職業になるのであれば言うことはないでしょう。人の一生のほとんどは働くことだからです。しかし、ロマンチックな農業イメージには、農業に対する尊敬は何一つ存在しません。

野口憲一『「やりがい搾取」の農業論』(新潮新書)

これまでの3Kイメージや同情よりはずっとましに見えるかもしれません。しかし、都市住民の農業への憧れは、あくまでも農家が自分たちとは異なる人であるというところに起因しています。自分たちの生活とは異なるからこそ、「スローライフ」が癒しになるのです。

かつての農業は、大変な仕事というイメージだったかもしれません。それが3Kイメージの根幹であったはずです。しかし、逆に言えばだからこそ、かつての農業には尊敬が集まったのです。大変な仕事に従事しながら、自分たちに食糧を作ってくれているという事実は尊敬に値するからです。楽して儲けていると見られている仕事には、尊敬は集まりません。

ですから私は、農家の仕事に対する農家自身の向き合い方のアップデートが重要であると考えています。

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