「居酒屋の本質を否定された」

各種の外食業態のなかにあって、コロナ禍の打撃が特に大きいのは居酒屋である。居酒屋とは酒を飲み、食事をする場所であるが、その重要性は胃袋を満たすことではなく、人と人が近しい距離で、リラックスして情報や意見を交わし、親交を深めるという役割や楽しみにある。だが突如襲ってきたコロナ禍によって「大皿でみんなでわいわいといった居酒屋の本質を否定された」(日経新聞、2020年6月10日)と述べたのは、居酒屋チェーン大手ワタミの渡邉美樹会長兼CEO(最高責任責任者)だ(2021年8月に社長に復帰)。

そのワタミは今、業態の「脱居酒屋化」に舵を切っている。先に触れた2020年6月の日経新聞のインタビューで、渡邉氏は「(居酒屋のマーケットは)ワクチンができても7割にしか戻らないという前提だ」と述べた。

実際、同社の2021年度3月期(2020年4月~2021年3月)の有価証券報告書(*2)によると、コロナ禍に伴う緊急事態宣言の発令等によって、売上高は前年比33.1%のマイナス。とりわけ国内外食事業では既存店売上高が前年比37.9%、客数が同39.0%にまで縮小してしまった。

居酒屋120店舗を焼肉店に転換予定

その中でワタミは、従前からの居酒屋業態の店舗について、不採算店を中心に撤退を進める一方、テイクアウトにも対応しやすい唐揚げ店・フライドチキン店などを中心に、新たな出店を進めた。21年3月期には159店を撤退し37店を業態転換、99店を新規出店(*3)。さらに2021年11月末までに、19店舗の撤退と4店の業態転換、35店舗の新規出店を行っている(*4)

写真=ワタミのプレスリリース素材より
「焼肉の和民」の2名掛けボックス席

さらに、居酒屋とは異なる専門店領域への参入にも踏み切った。2020年10月には、既存の居酒屋120店舗を新業態の「焼肉の和民」に転換すると発表(*5)。同年5月からロードサイド店として展開している「かみむら牧場」とともに、焼肉を今後の主幹事業にする方針を明らかにした。

加えて、2021年12月にはすし業態への参入も発表。同月9日には「すしの和」1号店をJR錦糸町駅前にオープンした。