すでに述べたとおり、ファイザー社のワクチンには95%の予防効果があります。この95%の予防効果というのは「100人のうち5人はワクチンが効かない」ということではありません。ワクチンを打たなかった人が1000人いたとき、100人が感染して発症する。ワクチンを打った人が1000人いたとき、5人だけが感染する。これが95%の予防効果です。
言い方を少し変えると、1000人中5人(全体の0.5%)はワクチンを打っても感染・発症してしまうわけです。なぜそうしたことが起きるのかと言えば、私たちのいろいろな病原体に対する免疫学的な力、すなわち免疫応答能には多様性があるからです。
免疫に多様性があることで人類は生き延びることができた
私個人の話をすると、新型コロナワクチンを接種して得られた中和活性は、全体から見て「中の中の下」といったレベルでした。先に示した共同研究において最も高い中和活性を得た人と比べると、私の中和活性は約7分の1しかありません。しかし、私のB型肝炎に対する中和活性は平均よりずっと高いことが、過去に受けた検査でわかっています。
つまり私は、新型コロナに対しては人並みの免疫しか持っていないけれども、B型肝炎に対しては並外れて強い免疫を持っているようです。これは私という人間が先祖から受け継いだ特性です。
人類はその長い歴史の中で、幾度も生命を脅かす感染症の脅威に晒さらされてきました。しかし、たとえばペストや天然痘のような恐ろしい感染症の大流行が起きても、絶滅はしていません。なぜかといえば、多様性があるからです。
ある人はペストでは死なないけれど、天然痘では死んでしまう。またある人は天然痘では死なないけれども、ペストでは死んでしまう。そうした多様性があるからこそ、私たち人間は今日まで命をつなぐことができたのです。
新型コロナを最終的に解決するには抗ウイルス治療薬が必要
新型コロナに対しても、やはり同じことが言えます。感染しても症状が出ない人、ごく軽い症状が出るだけですむ人たちが多数いる一方で、重症化して苦しむ人、命を失ってしまう人がいます。幸いにもきわめて効果の高いワクチンが開発されましたが、一部の人はワクチンの恩恵を得られないと推定できます。
変異株の問題もあります。いくつかの変異株には、ワクチンの効果が十分に及びません。新型コロナに対する現在唯一の認可抗ウイルス治療薬であるレムデシビルに対して、耐性を有する変異株の存在も報告されています。ワクチンや治療薬が効きにくい変異株が今後も出現し続けると覚悟しなければなりません。
そこで必要になるのが、新しい抗ウイルス治療薬です。変異株に対しても等しく強力な効果のある抗ウイルス薬を開発しなければ、新型コロナに関わる問題は最終的な解決に至らないと思われます。