60歳以上でも抗体は十分に得られる
年齢による違いはどうでしょうか。この共同研究に協力してくださったのはすべて病院のスタッフで、年齢分布は20歳から39歳が97人、40歳から59歳が110人、60歳以上が18人でした。
結論としては、「60歳以上の人たちで得られる中和活性はやや低い傾向があるが、著明ではない」ということになります。
60歳以上の参加者は全体のわずか8%ですから、年齢と中和活性との関係について、この調査だけで結論を下すことはできません。しかし少なくとも、この調査においては著明な差は出なかったわけです。
この共同研究では、ワクチン接種後の中和活性の減衰についても調べています。これも結論から言えば、時間の経過とともに減っていきます。平均値で見ると、2回目の接種を終えた30日後では約42%減衰しました。その後の傾向については現在(2021年9月)調査中ですが、時間が経てば経つほど減っていくのはまず間違いありません。接種後1年では相当な低下が見られるでしょう。この問題に対して、私たちはどう対処すればいいのか。
まず一つ言えるのは「人体には免疫記憶という仕組みがある」ということです。ワクチンを接種するとB細胞が中和抗体を産生するようになります。その後、B細胞は減っていきます。しかし、新型コロナウイルスを異物として認識したという「記憶」は残って、新型コロナウイルスが体内に入ってきたときにはB細胞は急速に増加し、B細胞が産生する中和抗体も急増するのです。
ワクチンが効かない人がいるのはなぜか
免疫記憶が十分に作用すれば――たとえワクチンで得られた中和活性が減衰していたとしても――感染は防げるわけです。しかし、2021年9月現在では「免疫記憶は新型コロナウイルスに対してどのように働くのか」というデータの蓄積はまだ不十分です。
そこで各国では「3回目のワクチン接種が今後必要になるだろう」と想定し、その研究を進めています。たとえばファイザー社のワクチンを2回接種した人は、3回目もファイザー社のワクチンを接種したほうがいいのか。そうではなく、3回目はアストラゼネカ社などの別タイプのワクチン(ウイルスベクターワクチン)を打つべきなのか。そうした研究が世界中で行なわれているのです。結論はまだ出ていません。
今後、臨床データの蓄積と解析が進んでいけば確かなことがわかってくるでしょう。
ワクチンについてはもう一つ、「接種しても中和活性を十分に得られない人がいる」という問題もあります。たとえば私たちの共同研究では、ファイザー社のワクチンを接種した225人のうち、1人の方は少なくとも私たちの検定方法ではまったく中和活性が見られませんでした。