福祉事務所の相談員が、自分たちのクリニックに不適切に受診誘導

大田区、江戸川区、港区は、都内のある精神科クリニックに随意契約で業務委託し、クリニック職員を相談員として福祉事務所に配置していました。その相談員が、自分たちのクリニックに不適切に受診誘導していたことが判明しました。しかも、受診することが生活保護を受給できるようになる要件であるかのような説明もしていたのです。そのような経緯で同クリニックにつながれた人々が、劣悪な住環境のシェアハウスに囲い込まれたうえに不適切な金銭管理までされていたことが発覚しました。

ちなみに、同クリニックは結局大したお咎めもなく、それ以降も系列クリニックを増やして大規模な精神科デイケアビジネスを展開しています。ただ、ようやく精神科デイケアの暗部が世に知られるようになりました。その結果、2016年度診療報酬改定の際には、「長期かつ頻回の精神科デイ・ケア等の適正化」が取り上げられ、算定に制限が設けられるようになったのです。

自己負担3割のうち2割を公費負担としてカバーする「自立支援医療費」

このようにして、問題を暴いて規制を設けても、また別の問題が発生するということの繰り返しになっています。これは決して一部の精神医療機関だけの問題ではありません。私は、精神科治療が成果を上げ、患者の容体が改善して自立しているのであれば何も文句など言いません。しかし、今や精神科通院に消費される自立支援医療費はうなぎ上りです。つまり、全体的に見ても患者を自立させてはいないのです。

米田倫康『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』(扶桑社新書)

自立支援医療費(精神通院医療費)とは、健康保険適用の場合、精神科に通院する患者の自己負担3割のうち2割を公費負担としてカバーする制度です。2006年度以前は別の制度(通院医療費公費負担制度)によって、通院患者の自己負担は5%以下でした。地方自治体によってはその5%分も負担することで患者の自己負担が実質無料でした。それは不正請求の温床でもありました。患者の自己負担がないので、不正な請求がされていても気づかないためです。

生活保護受給者の場合、自立支援医療費が適用される治療に対しては、生活保護の医療扶助ではなく、自立支援医療費から治療費が負担されます。精神科デイケア施設に1日中いるような患者であれば生活保護を受給していることも多いのですが、精神科デイ・ナイトケアの医療費1日当たり1万円が、すべて自立支援医療費からその精神科クリニックに支払われることになります。