104万戸あるマンションのうち建て替えられたのは300件

東京の都心を歩けば、新しく建て替えられているマンションがいくつもあるではないか、と考える人がいそうだ。しかし実際のところは、2020年の4月時点において、全国で建て替えられたマンションは、準備中も含めて300件に満たないのだ。

これは国土交通省が把握している全国の旧耐震基準(1981年以前の建築確認基準)のマンションの総数である約104万戸に比べると、ほんのわずかでしかない。

東京の街角で見かける建て替えられたマンションは、非常に幸運な300事例未満の中の一つなのだ。では、なぜマンションが老朽化しても建て替えられないのか。

簡単に説明しよう。

日本は私有財産をかなり強力に守る国である。これは日本国憲法第29条で明記されている。よほどの公益的な理由がない限り、この国では国民の持つ私有財産権を制限することはできない。

マンションの区分所有権も立派な私有財産権に当たる。高いお金を払って購入した(区分所有権を得た)マンションの住戸は、私有財産として制度的にしっかりと守られている。

ところが、マンションは鉄筋コンクリートで作られた頑丈な建物ながら、必ず老朽化する。建物ができて何十年も経過すると、日常の生活に支障をきたすほどに老朽化する場合もある。

そうなると、区分所有者の多くは「建て替えたい」と考えるようになるはずだ。マンションを建て替える場合、最も大きな問題はお金である。要するに、建て替える資金を誰が出すか、という問題だ。

東京の高級住宅街であれば建て替えは可能

東京の真ん中にあるマンションなら、この問題を易々やすやすと解決できたりする。

その仕組みを説明すると、以下のようになる。まず、建て替えがうまくいくのは、容積率が余っている場合がほとんどだ。容積率とは、その土地に建てられる建物の床面積が土地面積と比べてどれくらいになるか、という比率のことだ。

これは基本的に市区町村などの行政が定めている。例えば面積が1000平方メートルの土地の容積率が400%だったとすると、その土地には床面積の総計が4000平方メートルまでの建物が建てられることになる。

仮に港区高輪にある容積率400%の地域に、敷地面積1000平方メートルで築50年超のマンションがあって、たまたま容積率が半分ほど余っていたとする。

つまり、その土地では延べ床面積が4000平方メートルの建物までが建築可能だけれども、その老朽マンションの現況床面積は2000平方メートルだったという場合だ。

この場合、新しく床面積が4000平方メートルのマンションに建て替えても、元の住民に前と同じ面積の住戸を配分したうえで、残り2000平方メートル分の住戸を誰かに販売することができる。

港区高輪あたりだと、新しく建築した2000平方メートル分のマンション住戸がけっこうな値段で販売できるので、残り2000平方メートル分の建築費までそこから出すことができる。元の住民は1円も払わずに、ピカピカの新しいマンションを手に入れられることになる。

相対的に元の住民が所有している敷地の持ち分は半分になってしまうが、それでも新しいマンションがタダで手に入るわけだから、計画に反対する人はほとんどいない、というわけだ。