1年間かけてテストし、実証データを各国の保健省に提供する。その上で、彼らに導入したいと思ってもらって初めて、WHOに申請がいくという流れだ。

社会実装するにはまだまだ先は長いが、ここでテストをクリアし、Gaviのお墨付きをもらえば、一気に他国への普及も加速する可能性がある。

「実は、Gaviが一緒に試験したいと言ってくれるのはすごいこと。EPI(予防接種拡大計画)や、COVAX(新型コロナウイルスのワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組み)などの予算はすべてGaviが握っています。日本政府もこの機関に何千億円も寄付しているほど。まさに国際協力分野の銀行のような存在がGaviなのです」

写真提供=豊田通商
世界で初めて世界保健機関(WHO)が認証したワクチン保冷輸送車

民間にしかできないことがある

世界初の認証取得という偉業を成し遂げたわけだが、中川さんはもう次を見据える。グローバルヘルス(国際保健)の課題解決において、ワクチン保冷輸送車は第1弾にすぎず、新しいプロジェクトも進行中である。

アイデアをどんどん形にしてリリースするのは、中川さんの仕事観そのもの。「ゼロ」から「イチ」を作ることが何よりも好きなのだ。「個人的にはイチを作ったら興味がない」と言い切る。

ただし、会社員がゼロイチで新規事業を行うには注意も必要だと中川さんは指摘する。

取材に応じる中川さん(筆者撮影)

「何もベースがなく、ゼロイチだけをやり続けていると、いつまでやっているんだと言われます。そうならないように、まずは土台となる収益をしっかりと作ってから新規事業に当たるべきです」

中川さんは個人目標や部門目標などを達成した上で、このプロジェクトを遂行した。それならば文句を言われることもない。

造作もなくサラリと語る中川さんだが、既存の仕事をこなしながら、新規事業でも成果を上げるのは並大抵のことではない。なぜそこまでしてやるのか。国際貢献は官に任せておけばいいじゃないかという意見もあるだろう。これに対して、中川さんは民間にしかできないことがあると断言する。

「法整備や制度設計といったインフラづくりは、国連など官の役割ですが、実際に現場で使われる医薬品、冷蔵庫、クルマなどは民間が作っています。グローバルヘルスにおいて民間のアイデアは大切なのです」