横浜市郊外の築50年の団地に部員が住み、地域の高齢者の手伝いなどをして、人々が共に住み続けられる街づくりを目指す取り組みをしている大学サッカー部がある。スポーツライターの清水岳志さんは「チームの監督はサッカーの練習だけでなく地域貢献活動にもとても熱心。部員を地域のリーダーになれる人材に育てようとしている」という――。
監督
撮影=清水岳志
神奈川大学サッカー部監督の大森酉三郎さん

サッカー日本A代表に名前を連ねる「意外な大学出身」の選手2人

以前、ある大学サッカー部関係者の友人がこうつぶやいた。

「サッカー日本A代表に神奈川大学(以下、神大)出身者が2人いて、しかも地元の県立高校の出身。これ、珍しくない?」

伊東純也(28歳、ベルギー1部ゲンク)は逗葉高校から神大に入った。11月11日に行われたカタールW杯アジア最終予選のベトナム戦でチーム唯一の得点をあげるなど、勝利に大貢献した。

また、サンフレッチェ広島の主将、佐々木翔(32歳)は、直近は招集されていないが今春まで代表の常連だった。マリノス・ジュニアユースから相模原市の城山高校を経て神大へ進んだ。2人は確かに神奈川の県立高校の出身だ。

神大は現在、関東大学リーグの2部(全12大学)に所属している。1部(全12大学)の明治・早稲田・筑波ほどの実績を誇る強豪ではなく、2部内での順位も下位であることが多い。また、そもそも多くのA代表選手はJリーグ傘下のユースチーム出身者で、大学出身者は少数派だ。

にもかかわらず、A代表に神大の体育会サッカー部出身者が2人いるのは特筆に値する。偶然なのか、必然なのか。指導する監督の大森酉三郎(52歳)に特別な育成方法があるのではないか。本人に直接尋ねてみた。

「プロに行く子は育てようと思っても育つものじゃないですよ。2人は能力があって、たまたま育っちゃった。いい素材には邪魔しないようにしています(笑)」

4年間でサッカーだけでなく人間の基本の資質を学んだ

大森監督は謙遜した。そして、こう続けた。

「テクニックは後から何とかなる。サッカーの技術の前に、2人には、いい人間性があった。佐々木はハーフで、日本人のお母さんと祖父母にすごく優しいんです。そんな場面をよく目撃しました。伊東は大学受験で実技の試験を受けた時、試験官が見ているのに動作が緩慢に見えたので僕が叱ったら、ポロポロ涙をこぼした。心身は未熟なところもあったけれど、素直な心の持ち主だと感じました。2人のように、ナチュラルなその人なりの個性は社会に出て大事にしなきゃいけないもの。そういう本質を持っている人間になってほしいと、今も選手たちには伝えています」

佐々木と伊東は大学の4年間でサッカーだけでなく人間としての基本の資質を学んだ、ということだろう。

「A代表に2人出してる大学?(他に)ないんですかね。ビーチサッカー、フットサルの日本代表も(教え子が)いるんです」

大森は頬を緩めてちょっと自慢顔になった。