アフリカでワクチン普及に取り組む日本人商社マンがいる。トヨタグループの総合商社、豊田通商の中川興さんだ。今年3月には、考案した「ワクチン保冷輸送車」が世界で初めて世界保健機関(WHO)から認証を受けた。「民間にしかできないことがある」と語る中川さんを、ライターの伏見学さんが取材した――。

ワクチン普及に人生を捧げたある商社マンの軌跡

毎年400億円分のワクチンが捨てられ、150万人もの子どもの命が奪われている——。世界で起きているこの事実をご存じだろうか。

主な原因は、予防接種用のワクチンを保管、輸送する際の温度管理にある。

ワクチン保冷輸送車(トヨタランドクルーザー78)
世界で初めて世界保健機関(WHO)が認証したワクチン保冷輸送車(トヨタランドクルーザー78)(写真提供=豊田通商)

新型コロナワクチンで広く知られたように、ワクチンは熱に弱い。一般的な新生児用ワクチンは2~8度での保管が必須といわれているが、診療所や病院までに運ぶ際に、道路が未整備で必要以上に時間がかかってしまうことや、たとえ診療所に着いたとしても電気がなく保冷できずにいることが現実に起きている。これらによってワクチン供給量の約2割に当たる400億円分が毎年廃棄されているという。

豊田通商の中川興さん(57)はこの惨状を、1990年代初頭にアフリカ駐在時に目の当たりにした。

「ワクチンを輸送するクルマやバイクが、泥やイナゴなどの害虫にタイヤを取られて進まなかったり、難民キャンプに電気が通っていないためクーラーボックスが止まってしまったりすることは多々ありました。これを何とかしなければ、世界中の子どもたちを感染症から救うことなんてできないと痛感しました」

それから約30年後の2021年。豊田通商とトヨタ自動車、ルクセンブルクの医療用冷蔵庫メーカー・B Medical Systemsの3社は、ワクチンを適切な温度管理のもと運ぶ車両を世に送り出した。これは世界で初めて世界保健機関(WHO)が認証したワクチン保冷輸送車となった。