日報には乱暴な殴り書きで「もう辞めた!」

私たちの後釜として「グラン・サルーン江坂」に赴任した管理員さん夫妻は、就業前に2カ月にもおよぶ研修を受けたという。さらに現地で、2週間の実地訓練を受けたのだという。

管理会社としては、今度こそは長続きさせ、前例を払拭したいとの意図があったのだろう。しかし、知り合いの清掃員さんが報告してくれたところによると、この2人も着任後2カ月半ほどで辞めたという。

就業規則によれば、辞める場合は、最低2カ月前に予告しなければならないとあるから、辞意を表明したのは、赴任してまもないころだろう。私たちが着任したときに確認した日報によると、「グラン・サルーン江坂」では1年で5人もの管理員が入れ代わっていた。なかには、乱暴な殴り書きで、1ページにもわたる大きな字で「もう辞めた!」と書いている新任管理員もいた。

家内とそれを読んで、同情するとともに笑いを禁じえなかったものである。その日報の次のページには、おそらく代行管理員によるものであろう美しい文字で、その日に行なった業務が丁寧に書かれていた。つまりは、たったの1日でブチ切れ「もう辞めた!」のである。よほどのことがあったのだろう。

しわ寄せは現場の管理員に押し付けられる

こんな状態では、管理会社は立ちいかないのではないか。そのあたりは、われわれも痛感しており、フロントマンの富田に警告したことがある。

「理事長に『契約外のことはできない』とはっきり伝えなければ、この連鎖は断ち切れませんよ。あとからくる管理員さんのためにも、これ以上の無駄な出費を抑えるためにもそうすべきだと思いますが……」

だが、彼はそんな言葉に聞く耳を持たず、言下に言い放った。「そんなことは会社が考えることですよ。管理員さんがこのさき、何人辞めていこうが、引っ越し費用がどれほどかさもうが、南野さんにはなんの関係もないやないですか。会社がそれでも構へんて言うてるんですよ。とやかく言われる筋合いのもんではないんですよ」

これが管理会社の本音なのである。管理員に対しての理事長の不満は、必ず管理会社に行く。「おまえンところの管理員はなっとらん。いったいどういう教育をしとるのか。あれではうちの管理員として務まらん。嫌なら別の管理会社にしてもええんやぞ」

いつものパターンで責めることになる。責められたフロントマンとしては、自分のせいで管理物件がひとつ減ったとなると会社から管理能力を問われるので、「おっしゃるとおりにいたします」と管理員にきつく注意することになる。しわ寄せはすべて現場の管理員のところに押し付けられる。