2007年、首相になって間もなかったメルケル氏はダライ・ラマを官邸に招いたことで、中国より長期にわたって激しい抗議を受けた。以来、メルケル氏の中国に対する人権問題への言及はポーズだけとなった。中国を変えることはどのみちできない。だったら仲良くしてもうけるのが一番というのが、以来、ドイツの国是である。

今では、ドイツと中国は二国間政府協定を結び、首脳は年に何度も顔を合わせる。2016年から昨年まで、中国はドイツにとって最大の交易相手だ。中国市場なくしてドイツの経済発展はあり得なかったし、これからもあり得ない。メルケル首相の任期中の中国訪問は12回。コロナがなければ回数はもっと増えていただろう。

中国の思惑次第で分断されてしまう危険

華やかな成功といえるドイツの対中政策だが、問題が少なくとも2つある。

1つ目は、自分たちが儲けることだけを考えて、EUとしての対中政策を怠ったこと。その間隙を縫って中国は、「一帯一路」プロジェクトの一環として、東欧やバルカン諸国の17カ国ものインフラに多額を投資し、これらを束ねて「17+1」というグループまで結成した。しかも、その17カ国のうちの12カ国がEU加盟国だ。

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これらの国々は当然、多かれ少なかれ中国に借款がある。東欧のEU国と、EUを主導している西側国との間には、そうでなくても意見の違いが多いから、下手をすると、中国の思惑次第でEUがさらに分断される危険が生じている。

2つ目の問題は、ドイツ経済の行き過ぎた中国市場依存。特に自動車産業はすでに中国の言いなりだし、多くのサプライチェーンは中国に完璧に依存している。また、中国企業によるドイツのハイテク企業や不動産の買収も進んでいるが、これまでメルケル氏にはそれらを修正しようという意思が希薄だった。

さらにメディアも中国のマイナス面を取り上げることには消極的で、そのため、これだけ中国の影響がドイツ社会に入り込んでいるにもかかわらず、国民の間でそれが危機として意識されていない。つまりドイツ社会には、中国とはどういう付き合い方をしていくべきかをオープンに議論する空気もなかった。膨張している中国の軍事力に至っては、距離が遠いため、脅威と感じているドイツ人はほとんどいない。当然、香港も、ウイグルも、台湾も、ドイツ人にとっては、どれも遠い話だった。