中国を怒らせても自らの首を絞めるだけ
メルケル首相の対中政策の極め付きは、2020年の12月30日に駆け込みで大筋合意が決まったEU中国包括的投資協定だ。これはドイツが欧州理事会の理事長国であった最終日(最終日は正確には31日)に、メルケル氏が自分の力が及ぶ最後のチャンスを利用して強引にまとめたものだ。これによりメルケル氏は、それまでの親中政治を、自分の引退後も動かぬものにしようとしたと言われる(ただし、現在、欧州議会が対中ブレーキを引いており、批准に至るかどうかが分からなくなっている)。
こういう経緯があるからこそ、メルケル後のドイツがいったいどちらに舵を切るのかと皆が興味津津になっているわけだが、私は、ドイツの対中政策は大きく変わる余地は少ないと見る。もちろん、新政権に緑の党が加われば、人権問題を責め立てるだろうし、自民党は市場開放を叫ぶに違いない。しかし、中国を怒らせて困るのはドイツの産業界だ。中国攻撃の行き過ぎは、ドイツ企業が許さないはずだ。
現在、新政権が中心に据えている政策に、デジタル化の促進がある。ドイツは、高速の電話回線や4Gの整備、また、企業や公共機関のデジタル化が遅れており、それらの整備が次期政権の最大の課題の一つだ。さらに今後は5Gの整備も必要で、華為技術(ファーウェイ)を採用するかどうかがかなり前から議論されていた。しかし、華為に関してドイツ政府は、すでに締め出している英国、あるいは、締め出しつつあるフランスなどと違い、いまだに明言を避けている。おそらく、部分的制限を施した上で、採用の方向に決まるのではないか。ドイツが中国に対して強い態度で出るとは考えにくい。
人権問題でプレッシャーをかけている場合ではない
それどころか現在、ドイツはさらに中国に擦り寄らなければならない状況に見舞われている。現在、世界に供給されているマグネシウムの8~9割が中国産だが、その生産が中国の電力不足で止まっており、基幹産業の多くがパニックに陥っているのだ。マグネシウムはアルミニウム合金の硬度、強度、耐熱性などに決定的な役割を果たすため、自動車や飛行機をはじめ、ありとあらゆるところで必要とされているが、ヨーロッパではコストが合わず、2001年から生産は中止されている。
そんなわけで今、マグネシウムの価格は今年の初めの5倍。すでにフォルクスワーゲン社ではマグネシウム不足による短縮操業が始まっており、このままいくと11月末には、ドイツ、およびヨーロッパの多くの工場がストップする可能性があるという。ドイツの金属工業の事業連合会では、外務省に政治的援助を求めており、要するに、旧政府であれ、新政府であれ、中国に人権問題などでプレッシャーをかけることなど今や夢物語だ。