枝野氏はこの二大政党政治のなかで頭角を現してきた。もともとは弁護士出身でリベラル色が強い政治家だったが、「左に偏り過ぎれば中間層が離れる」という「二大政党政治の常識」にのっとり、つねに「中道」に位置取りするように心がけてきたといえる。今回の衆院選で、共産党との野党共闘に一歩及び腰だったのも、そのような文脈でとらえるとよく理解できるだろう。
二大政党制の掟は大きく崩れつつある
しかし、中間層の支持を得るため政治的主張をあいまいにするという「二大政党政治の掟」は大きく崩れつつあるというのが私の見立てである。
デジタル時代が本格化し、人々の価値観は極めて多様化し、ネット上では「尖った意見」が飛び交っている。政治テーマでも選択的夫婦別姓や非正規労働問題、地球温暖化問題、外国人人権問題などワンイシューに全力で取り組む人々の発言力が格段に増している。そのなかで「中道的主張」は良しあしは別として埋没していく。幅広い支持を獲得して「単独政権」を狙う二大政党にとっては受難の時代となったのだ。
二大政党政治の米国で、当初は泡沫扱いされたトランプ氏が一部の過激支持層の後押しを受けて共和党を乗っ取ってしまったのはその象徴である。現大統領のバイデン氏も、自ら民主社会主義者と語るサンダース氏の熱狂的支持者の後押しがなければ、トランプ氏を打ち負かすことはできなかったであろう。
日本も同じだ。安倍政権が7年8カ月という憲政史上最長の政権となったのは、数々の疑惑が発覚しても決して離反しなかった強固な支持基盤があったからだ。それはネトウヨに代表される極右的な支持層である。
先の自民党総裁選で当初は泡沫だった高市早苗氏が、安倍氏の支持を受けた後に安倍支持層に熱狂的に支持され主要候補に躍り出たのも「中道政治」が終焉しつつあることを示唆する現象だった。典型的な「中道政治家」である岸田文雄首相の存在感のなさは過去に例がないほどだ。
「二者択一の消去法」で投票先を選ぶ二大政党政治のあり方が有権者に飽きられているのは、近年の低投票率をみれば明らかだ。
埋没する自民、立憲…本格的な多党制時代が幕を開けた
この流れで政治をみると、今回の衆院選で維新が大躍進したのも理解できる。
維新は大阪の地域政党として始まり、「東京への対抗心」から府民の人気を得ているのは間違いない。しかし、全国的に議席を増やした今回の衆院選をみると、それだけではなさそうだ。
維新躍進のもうひとつの理由は、小泉政権で竹中平蔵氏が旗を振った規制緩和や民営化といった新自由主義を全面に掲げていることだろう。
安倍晋三政権は竹中氏らの新自由主義と麻生太郎氏ら自民党の旧来型バラマキ主義が混在する政権だった。菅義偉政権は新自由主義に重心を置き、菅氏が後継に担いだ河野太郎氏も規制緩和などの新自由主義を重視する立場だ。