「野党共闘が不十分だった」
私は「野党共闘が不十分だった」という立場である。
野党候補を一本化した効果は確かにあった。自民党の甘利明幹事長(神奈川13区)や石原伸晃元幹事長(東京8区)ら大物を選挙区で倒したのは、明らかに野党一本化効果だ。
それ以外にも新聞各社の選挙情勢調査が大きく食い違ったことが物語るように、与野党激戦区が急増したのは間違いない。野党統一候補が1万票以内で惜敗した選挙区は約30あったことも一本化効果を裏付けている。
一方、「野党候補を一本化すれば勝てる」というのは幻想であることもはっきりした。どんなに一本化しても投票率が上がらなければ、組織票で上回る自公与党に競り負けるのだ。
今回の投票率は戦後3番目に低い55.93%。前回53.68%(2017年)、前々回52.66%(2014年)よりは若干上がったが、民主党が政権を奪取した2009年衆院選の69.28%にははるかに及ばない。少なくとも投票率を60%台に引き上げなければ、自公と互角以上に戦うのは難しいであろう。
しかし、枝野氏の選挙戦略はオーソドックスで魅力に欠けた。
「次の内閣」をつくって共産党の田村智子参院議員や元文部科学事務次官の前川喜平氏ら無党派層に人気のある政治家・民間人を起用したり、コロナ対策の「野党版専門家会議」を設置して公衆衛生学の専門家だけではなく現場の医師や貧困・非正規労働問題などに取り組む人々をメンバーに加えたり、ドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』で話題を集めた小川淳也氏を要職に抜擢したり、カリスマ性のあるれいわの山本太郎氏を野党共闘の目玉候補として自民大物の選挙区にぶつけたり……野党に注目を引き寄せる手はいくらでもあったはずだ。
オーソドックスな「中道」戦略を採ったが…
ところが、立憲が制作した衆院選向け動画は枝野氏一人が有権者に訴える内容で「政権交代をめざすチーム」の姿は見えなかった。野党が政権を取ったときの「内閣の顔ぶれ」を想像することはまったくできなかったのである。これでは政権交代の機運が高まるはずがない。枝野氏が独り相撲をとった感じは否めない。
立憲に欠けていたのは「単独政権の誕生など絶対にありえない」というシビアな現状認識であろう。
1990年代に小選挙区制度が導入され、日本政界は二大政党時代に入った。1996年衆院選では自民党と新進党が激突。新進党は敗北し、まもなく解党した。バラバラになった野党議員を糾合して野党第一党の座についたのが、民主党だった。
以来、「自民党か民主党か」という二者択一の選挙制度は日本社会に根付いていった。民主党は政権交代への警戒感を薄めるため、外交安保政策を中心に自民党との対立軸を極力減らし、「自民党の政官業の癒着」など一部に絞る選挙戦略を描いてきた。これは奏功して2009年の衆院選で圧勝し、ついに政権をつかんだのだった。