「歴史」重視……人を取り込むからめ手

相手の
「歴史」を
見てから
判断すべし。
小林吉弥『田中角栄処世訓 人と向き合う極意』(プレジデント社)

田中角栄の対人関係を見ていると、頭から見くびった相手は別にして、常に全力投球で向き合っていたのが特徴的だった。この際の全力投球とは、相手のことを事前に調査し、徹底的に把握しておくことである。その手抜き一切なしの下調べは、経歴、生活状況など多岐に及んでいた。とくに、相手の来し方などの「歴史」を重視したものだった。

例えば、政界に入る前の事業家時代にも、商売相手のことは徹底的に事前調査していた。田中はこう言っていた。

「オヤジは酒飲みだが、長く商売をやってきている。息子はいささか甘いが性格はいい。誠実に商売をしているのが分かる。ここまで調べて、会ってみて間違いないとなったら商談に入る。これで、まず相手を見間違うことはない。ワシは、常にその人の「歴史」を見て判断することにしている」

地域に溶け込むためには、
諸々の歴史を
知ってから取り組め。

その「歴史」重視は、政界に入っても変わらなかった。若き日の自らの新潟での選挙を振り返って、田中派若手議員あるいは田中派からの候補者に、こう言い置いたことがある。

「いいか、例えば選挙区の神社の石段はなぜあるのか、未だどんな由緒に基づいているのかなど、正確に歴史を説明できないようで、なんで『郷土を愛している』などと口にできるんだ。有権者の眼力は凄いぞ。甘く見るな。選挙区の歴史を知らないような奴に、多くの支持が来るワケがない」と。

相手に自分の諸々の歴史を知られてしまったら、弱点を握られたに等しい。田中はこうした“からめ手”でも、人を取り込んでいったのだった。

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