反対を訴える側からは「接種を奨励する製薬会社の片棒担ぎなのか?」「ワクチン強制への布石だ」「接種者のブレークスルー感染が起きているのに、有効性に疑問」など一部陰謀論めいた声が聞かれる。一方、ホテル側は割引特典に必要な接種証明書を簡単に捉えていないだろうか。まるで、一種のメンバーカードのようなものとみなして運用してしまっている懸念を感じる。

手探り状態なままお得なプランだけが独り歩きしている

ギャップが生じた理由として考えられるのは、政府の接種証明書の利活用方法に対する指針が、依然として手探りな状態にあり、十分な論議を経ていないにもかかわらず、民間では「接種証明による割引」というお得なプランだけが独り歩きしていることだ。

経団連は6月24日、「ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の早期活用を求める」と題する提言を行った。ここでは「感染防止と両立させる形で、早期にグローバルな社会経済活動の回復に向けて、ワクチン接種を加速し、世界の動きとも連携をはかりながら、ワクチンパスポートの導入や活用を進めることが重要」とうたわれている。

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しかし、8月25日の会見で菅義偉首相(当時)は「積極的な活用の方法を含め、飲食店の利用、旅行、イベントなど日常生活や社会経済活動の回復もしっかり検討する」と述べるにとどまっており、具体的な方策は今も示されていない。

本来は「陰性証明」「治癒証明」も入るもの

では、ワクチンパスポートが実用化されている他国はどのような運用をしているのだろうか。

欧州連合(EU)で7月から導入された「ワクチンパスポート」には、「ワクチン接種証明」だけでなく、「陰性証明」そして「治癒証明(コロナにかかったことで免疫を得たことを示す)」の3つのデータが入った総合的な電子証明書となっている。なお、EU加盟国間の行き来には、基本的にこの3つのデータのうちどれかが有効であれば、国境でのコロナ検査や隔離措置を受けずに入国が認められている。

一方、EUから脱退した英国はイベント会場などでの提示義務を前提とした「ワクチンパスポート」の導入を見送った。ジャビド英保健相はワクチン接種率が高いことに言及し、「現状では必要性がないと判断した」と説明している。

海外との行き来については、保健当局が接種済み者へ「ワクチン接種の電子証明」を発行し、未接種者(拒否者を含む)は旅行直前に「陰性証明」もしくは医師などからの「治癒証明」を個別に取得することで支障はない、と判断したからだ。