「全館コロナフリーを目指す」と打ち出す施設も
全国の19都道府県を対象に出されていた「緊急事態宣言」が、ついに9月末をもって解除された。田村憲久厚生労働相は「日常生活の制限の緩和は段階的に進めざるをえない」と、依然として慎重な態度を示しているが、長期にわたる自粛生活のタガが外れる反動で、秋の行楽や帰省といった国内旅行需要が一気に増える可能性がある。
そうした中、ホテル業界ではこのところ「ワクチン接種証明書」を提示することで室料等を割り引く“特典”をつけ、新たな需要掘り起こしに精を出している。中には「コロナワクチン接種完了者のみが宿泊可能」「全館コロナフリーの施設を目指す」と打ち出す宿泊施設も出てきた。
昨年末に「Go Toトラベル」が一時停止となって以降、一気に旅行熱が冷めたこともあり、このタイミングで顧客の取り戻しを図ろうという動きが出てくるのは当然のことと言えよう。
しかし、ワクチン接種はそもそも「努力義務」であって、義務ではない。厚労省はこの点について、「接種は強制ではなく、最終的には、あくまでも、ご本人が納得した上で接種をご判断いただく」と明記している。こうした背景があるにもかかわらず、接種済みか否かを軸としたプロモーションの実施は差別には当たらないのかどうか。「宿泊施設向けの業法」、そして「ワクチン証明書の存在意義」の2つの角度からその妥当性を検討してみたい。
未接種を理由に宿泊拒否するのは法令違反
そもそも、接種者への割引や、非接種者の宿泊を認めないことは法的に問題ないのだろうか? 筆者が業界関係者に聞き取りを行ったところ、目下の解釈はおおむね次の通りだ。
「割引特典」を使いたい顧客に対し、接種証明の提示を求めることは個人情報保護の観点に照らして問題はないという。また、宿泊施設が接種済み者と非接種者の部屋をフロアごとで分けるといった手筈をとることも法律上は許されている。
一方、宿泊施設が客に対し接種をしていない、あるいは陰性証明がない、という理由で宿泊を拒否するのは「業法違反」となる。それはホテル・旅館業界に遵守が求められている「旅館業法」で以下のように規定されているからだ。
営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一、宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき。
二、宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
三、宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
※本条に違反した場合には、罰則の対象となる(50万円以下の罰金)