新型コロナワクチンの2回接種を終えた人の割合が全国民の5割に達した。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔さんは「接種率は欧米並みになったが、経済状況は後れをとっている。ワクチン接種という手段が目的にすり替わっている」という――。
緊急事態宣言/休業を知らせる看板
写真=時事通信フォト
東京・新橋の飲食店街で、店頭に掲げられた休業を知らせる看板=2021年9月9日午後、東京都港区

高いワクチン接種率を台無しにする「手段の目的化」

9月10日、日本におけるワクチンの部分接種率(1回以上接種した人の割合)が米国に並んだことが大きく報じられている。また、日次の100人当たり接種回数に至っては現在世界最速に至っている(9月9日時点で0.95回/日)。

河野太郎ワクチン担当大臣が「自治体、医療関係者に頑張ってスピードアップしていただき、米国に肩を並べるようになった」と述べるように、現場力の賜物である。しかし、周知の通り、経済・金融情勢に関する日米格差は縮まるどころから拡がっている。

二言目には「緩み」を理由に経済の活力を奪おうとする日本の防疫政策を見る限り、今後明らかになる7~9月期、10~12月期の成長率でも「突き進む欧米、置き去りの日本」という構図に大きな変化はないだろう。

年初来の展開を見れば分かるように、欧米では「高いワクチン接種率」という手段をもって「経済を回す」という目的が達成されているのに対し、日本は「高いワクチン接種率」という手段が目的化しており、相変わらず経済については自粛三昧にふけっている。

日本のワクチン接種率が米国のそれを追い抜いた今でも、この「手段の目的化」という根本的な問題は全く解決されていない。これは戦略の欠如とも言い換えられる。

欧米の場合、「いちはやくワクチン接種率を高め、行動制限を解除し、社会を正常化する」という戦略があった。そしてワクチン接種の迅速化はそのための戦術だった。目的と手段、戦略と戦術といった思考回路の欠如が年初来の日本経済大敗の主因だろう。

ギャンブルではなかった英国

例えば、G7の中で当初からワクチン接種率が最も高かった英国はイングランド全土を対象とした行動制限解除に関する行程(ロードマップ)を今年2月下旬に発表している。その時点で「最短6月21日」の行動制限解除を「目標」とする四段階の行程が示されていた。こうしたロードマップ全体は日常回帰のための戦略とも言える。

この戦略の枠内における「目標」を目指して英国はワクチン接種という「手段」の活用に全力を尽くした。手段を効率的に行使する方法、要するに戦術は各国様々である。