例えば英国では打ち手不足により接種率上昇が止まらないように、所定の訓練を受けたボランティアの早期養成などの一手が取られた。結果、今年上半期を通じて英国の接種率は常にトップを走り、今も世界の先頭集団にある。

デルタ変異株の猛威によって「6月21日」の最短目標は逃したが、6月28日には「7月19日に大半の行動制限解除」を打ち出している。これに付随してテニスのウィンブルドン選手権も、サッカーの欧州選手権(EURO2020)も有観客で開催した。現在もサッカーのプレミアリーグが有観客で普通に行われている(ちなみにマスクもほとんどつけていない)。

ワクチン接種を手段に、出口戦略を描いた欧米

こうして正常化する経済を受けてイングランド銀行(BOE)も年内に量的緩和を撤収させる算段をつけ、為替市場では英ポンドが米ドルよりも高いパフォーマンスを維持している。感染症という不透明感の強いリスクに対し、概ね当初の戦略通りに事態が進行している。

これは米国も同様でバイデン大統領が「独立記念日(7月4日)にはウイルスから独立する」と述べたのが3月11日の演説だった。これも概ね実現に漕ぎ着けている。突出した成長率と雇用増勢が何よりの証左である。

タイムズスクエアの人々
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/ChainGangPictures)

繰り返すが、「迅速なワクチンの開発・調達・接種」は手段、「行動制限の解除、社会の正常化」は目的である。この手段と目的を包含した戦略が「いちはやくワクチン接種率を高め、行動制限を解除し、社会を正常化する」だった。

国ごとにばらつきはあるが、2021年が明けてからの英米そしてユーロ圏の接種ペースは日本のそれとは比較にならないほど速く、それが奏功して米国や英国は1~3月期以降、ユーロ圏では4~6月期以降、成長率が加速している。

日本では英国の行動制限解除を「ギャンブル」と揶揄する向きも当初はあったが、さしたる出口戦略もなく局地的な消耗戦を続ける日本の対応の方がよほどギャンブルに思える。

今の日本の接種率は4月時点の英国より上

片や、欧米でロードマップの話が出始めた4月、日本は3回目の緊急事態宣言を発出した。当時から「効果がないのに何度繰り返すのか」という失望が漏れていたが、それでも当時の日本のワクチン接種率は先進国の中でも群を抜いて低かったこともあり(4月1日時点で0.71%)、「ワクチン接種率が高まるまでの辛抱」との説明はまだ説得力があった。

7~9月期や10~12月期の成長率まで見通せば、欧米のような復活も可能という見立ては「そうかもしれない」という希望を抱かせるものではあった。

だが、蓋を開けて見れば、ワクチン接種率が米国を追い抜いた今も緊急事態宣言は続き、年明けから9月末に至るまでほぼ丸ごと自粛を強いられている。直近4~6月期について言えば、米国もユーロ圏もそれぞれ前期比年率+6%以上、+8%以上と潜在成長率の2~3倍のスピードを実現している。