未接種者への配慮の精神が欠けている
こうした欧州の例を見ていく中で、意外なことに気がついた。
日本で現在、海外旅行者向けに発給されている「新型コロナウイルス感染症予防接種証明書」はあくまで「ワクチン接種の事実を公的に証明する(厚労省説明)」ものであって、言うなれば、「接種証明書」が英語になっただけものだ。
ところが多くの自治体では、この証明書について「ワクチンパスポート」と呼んでいる。行政において作られた「通りの良さそうな通称カタカナ名」を使った結果、今や本来の意義から離れた決定的な違いがあると認識しておきたい。
・EUのワクチンパスポート……接種証明、陰性証明、治癒証明のどれかがあれば「安全」と承認
・日本のワクチンパスポート……接種証明のみ
日本の今の枠組みと世論の解釈では「ワクチンパスポート」という名称が独り歩きしており、欧州型ワクチンパスポートが本来持ち合わせている「未接種者への配慮の精神」は欠けている。仮にホテル業界など、民間が接種証明書などを使ったプロモーションを行うに当たっては、「打てない人(打たない人)への救済措置」も検討しておく必要があろう。
「食事も旅行もできない」という風潮を広めないために
「ワクチンパスポート」とは名ばかりの接種証明書が、利活用への論議が不十分なまま、「それがないと食事にも旅行にも、イベントにも行けない」という風潮を生み出すのは正しい方向性といえるだろうか。すでにワクチンの接種有無による差別や区別に対する懸念を訴える人も少なくない。
緊急事態宣言の解除を受け、人の往来がいま以上に活発になると予想される中、コロナ感染リスクを軸とした顧客の“選別”を適切な形で行うには、旅館業法や接種証明書の運用をもう一段階、真剣に考える必要があるだろう。早晩発足する新政権には「コロナへの安全性を示す何らかの指針」を使った、より着実な制度設計や行動ルールを取りまとめてほしいものだ。