チェックイン時の発熱アンケートは無意味
こうした動きからは、内心複雑なホテル側の本音が透けて見える。宣言解除による旅行需要の復活が期待される一方で、感染リスクと戦いながら大勢の利用客を迎えなければならないからだ。
コロナ禍の端緒以来、ホテルに泊まろうとすると、チェックイン時に「感染者への接触歴」や「海外への渡航の有無」「発熱や咳の有無」といった質問項目への記入が求められる。しかし、客が仮に「発熱あり」と申告しても、コロナ陽性を証明するものがなければ第五条の一に抵触し、ホテル側は受け入れるしかない。つまりアンケートには何の強制力もなく、感染が疑わしい客を追い返すための法的根拠はない。
日本旅館協会の副会長で、自らもリゾートホテルを経営する永山久徳氏は、「宿泊事業者側にも選択権がほしい」と訴える。
「今のルールでは来てもらうのは怖い」
永山氏によると、法律が足枷となって行き場をなくしている宿泊施設もあるという。「老夫婦が運営していることから、泊まり客からの感染が怖いので、できれば接種済み者だけに利用してほしいと考える旅館も存在する。しかし、『こうしたお客さんの選別をするのは業法違反になるから』とやむなく休館にしているケースもある」
非接種者だからといって来館を断れないが、「今のルールでは、来てもらうのは怖い」と考えている実例といえようか。
永山氏は「大半の宿泊施設は、『旅行者は全員ワクチン接種すべきだ』とは思っていませんし、『未接種者を断るべきだ』などと考えていません」と強調したうえで、「ワクチン接種者のように感染リスクがより低い顧客のみが泊まれる規定ができれば、利用者も事業者もメリットを感じるのではないか」と、接種者限定の宿泊を打ち出す事業者に理解を示す。
ホテル側にも、他の宿泊客はもとより自社スタッフの安全を守る義務がある。「国にはせめて、明らかに症状が出ている人に対しては宿泊を拒否できるような条文を組み込んでほしいです」(永山氏)
「接種者への割引特典」をめぐる主張が乖離している
筆者自身は、接種証明を確認したいがために割引を提供するという宿泊施設の方針は決して悪いことではないと考える。それにより、コロナの感染リスクがいくらか収まる、あるいは清掃やリネン交換の際に何らかの留意事項が減り、最終的にコスト節約につながる可能性があるからだ。
ホテルに限らず、「接種者への割引特典」はさまざまな場所で始まっている。そうした試みに関する報道が出るたびに、ワクチン反対を唱える人から反論の声が上がる。しかし筆者の目には、「施設側の意図」と「反対を訴える人々の主張」が大きく乖離しているように映り、もどかしく感じる日々が続いてきた。