発案者は初の女性部長
25歳のころ博士号を意識しはじめたという飯田さんは、28歳から業務の間に博士号取得に向けた研究を始めた。そして研究に専念するという経験を求めて、2年後にバージニア州立大学への留学という形で思いを叶えた。
会社に掛け合った末、仕事は復職を前提として1年間休職。この間給与は出なかったわけだが、海外の研究現場を体感できたこと、最先端の学びを得られたこと、そして外から日本や会社を見られたことは大きな収穫になったという。念願の博士号も母校の薬学部から授与され、飯田さんは新たなスタートラインに立った。
2006年には、島津製作所では女性初の部長に就任。科学技術系の企業は、そもそも理工系の女子学生が少ないこともあって女性比率が低いことが多い。同社も例外ではなく、女性管理職比率は今もメーカー平均を下回っている。
新人時代には、労働基準法に基づいた母性保護で、女性への残業規制があった。責任を持ってやり終えたい仕事を途中で男性社員に渡さねばならない場合も多く、悔しい思いをした。会社に「女性の残業規制をなくした上で男女問わず残業を減らす方向へ」と提案したこともあったという。
残業規制や学位取得への道筋など、働く中でぶつかった壁を、飯田さんは自ら会社に働きかけることで乗り越えようとし続けてきたのだ。
「伸ばしたい事業分野の研究室へ」戦略的に派遣
そんな彼女が発案したのが、2021年4月に始まった「REACHラボプロジェクト」だ。これは、島津製作所から30歳前後の若手技術者や研究者を大阪大学の博士課程へ派遣し、大学と一体となって高度グローバル人材を育成しようというものだ。
両者は共同研究講座や「大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所」を開設するなど、以前から研究や協業の面で連携を深めてきた。だが、若手の育成を目的にタッグを組むのは今回が初めて。人材開発室室長の妹崎淑恵さんは、「一般的な企業の学位取得制度とは違い、より戦略的に博士号取得を支援していく」と意気込みを語る。
「当社が伸ばしたい事業分野と大阪大学の先生が研究しているテーマとをマッチングして、該当する研究室へ若手社員を派遣します。業務を完全に離れて研究に集中することで知識と人脈を広げてもらい、復社後には博士レベルの研究能力を持ったリーダーとして活躍してもらいたいと思っています」(妹崎さん)