機関紙「自由民主」だからこそ語れる本音
■河野太郎
最後に、河野太郎氏だ。唯一、都市部(神奈川)出身の議員らしく、政策集には、JA、郵政、商工会、自治会といった文言は一切書かれていない。農業に関する記述もなく、これは、地方出身の他の3候補者との大きな違いだ。
業界団体へのメッセージというよりも「地域における保守」を語ることで、地方の地域党員へ直接訴えているという印象が第一だ。そして、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進めるとともに」という文言から、持論である「脱原発」という言葉を封印しつつ、経済界に配慮していることが分かる。
3:保守層への訴えは?
では、業界団体票と対になる、一般有権者による地域票の対策を各候補はどう打ち出しているのか。
高市早苗氏は、テレビなどでは靖国神社公式参拝を公言し、4候補の中では、右寄りの位置付けになっているが、「自由民主」では、そのカラーを意識的に薄めている。「新しい日本国憲法の制定」を公約とするだけで、靖国神社公式参拝や女系天皇制反対といった文言は一切出てこない。
こうした右寄りのカラーを前面に出さずに、あえてDXなどの先進的な政策を提示することで幅広い層での支持獲得を目指しているように見える。このことも二階派の議員が乗りやすくしている要因であることは、先に指摘した通りである。
逆に、リベラルなカラーの河野太郎氏は、同紙で「保守主義とは何か」を語り、「日本を日本たらしめているもの、たとえば長い歴史と文化に裏付けされた日本語と皇室」「憲法改正を進めます」といった保守に訴える文言を入れている。こちらはこれまでの自分にないイメージの文言を入れることで、保守層に訴えたいと考えているのだろう。
岸田氏は外務大臣時代の経験から、名指しは避けるものの「権威主義的な体制が勢いを増す中、台湾海峡の平和などに~毅然と対応」「ミサイル防衛の強化」「拉致被害者の即時一括帰国」など、中国や北朝鮮といった東アジアでの外交・安全保障対策で保守層に強く訴える文言が入っており、特に拉致問題に唯一言及していることが注目に値する。
総じて、保守層の中では、一番右が高市氏、その次が岸田氏、河野氏、野田氏の順と見られている中で、「自由民主」では、高市氏は保守色をやや抑え気味、岸田氏、河野氏が保守層へ訴える文言を豊富に使い、野田氏は保守層をそもそも自分が獲得したい票と思っていない。そういった印象を抱いた。
「自由民主」に掲載された政策集を見比べてみるとそこには、党員投票というクローズされた範囲での選挙に際して、どのように候補者たちが党員にアピールし、票を獲得しようとしているか、その戦略が浮き彫りになっている。
「固有名詞」や「政治的な隠語」など党員に刺さる言葉を繰り出し、必死のアピールをする。そこには、テレビ討論などとは異なる、候補者(およびその陣営)の熱量や深謀遠慮が感じられる。しかし、そのアピールが一方通行という場合もある。その結果は、29日に判明する。