「政治的な隠語」で党員票をかき集める

■岸田文雄

次に岸田文雄氏の公約を見てみよう。外務大臣経験者であり、スマートな政策通としても知られるが、同紙では党員に「交通・物流インフラの整備を進める」と訴えている。地に足の着いた、極めて泥臭い政策である。これは明らかに建設票へのアピールだ。

機関紙「自由民主」に掲載された岸田文雄氏のページ
プレジデントオンライン編集部=撮影
自民党機関紙「自由民主」9月28日、10月5日合併号より

言うまでもなく、建設業は自民党を支える大きな勢力。地域によって違うが、山形県の業界団体票の大多数が建設業で占められている。そのため、私もかつて党員選挙をした際、党員を多く抱える建設会社に電話をこれでもかというほどかけた。1社で50票、100票といった大きな票を持っているケースもあるからだ。郵便やJAとともに、地方では特に建設票は大きい。岸田氏は、ここへしっかりアピールしていることがわかる。

さらに、「地域を支える農林水産業について、多面的機能の維持」との文言も残している。この「多面的機能の維持」は政治的隠語で、「土地改良事業」を支援していくというメッセージである。土地改良事業は、民主党政権下で予算を半分以下に削られ、当時、土地改良区の団体の長だった野中広務自民党元幹事長が民主党政権の小沢一郎幹事長の元に要望に行った姿が大々的に報道された。民主党政権は、子ども手当のために、土地改良事業を大幅にカットしたのだ。

その後、自民党政権に戻り、土地改良事業団のトップの全国土地改良事業団体連合会会長に二階幹事長が就任し、それに関する予算は年々増加している。今回の「多面的機能強化」という言葉に土地改良区に関わる人々(主に農業関係者)なら、さらなる予算増加を期待するに違いない。岸田氏は農業票というところにもぬかりなくアピールしていることがわかる。

■高市早苗

次に、高市早苗氏の公約を見てみよう。目立つのは、「危機管理投資」(例:「成長戦略」「経済安全保障」)や「国防力」などの「」を多用した言葉。また、サイバー、マテリアル、フリーアクセスといったカタカナ用語も多い。これらは官僚が好んで使う用語であり、一般市民が読む自民党機関紙にはやや不釣り合いのように感じられた。高市氏の訴えからは、他候補のような大きな業界団体を意識した文言はあまり出てこない。

機関紙「自由民主」に掲載された高市早苗氏のページ
プレジデントオンライン編集部=撮影
自民党機関紙「自由民主」9月28日、10月5日合併号より

ただ、「新しい日本国憲法」制定についてはしっかり述べている。神道政治連盟や日本会議の主張と同一であり、それらの団体へのアピールという意味では、この言葉が有意義なのだろう。これらの団体の組織内候補である参議院議員2人は、今回、高市氏を応援している。政策集では、全体として、どこかの業界票へのアピールというより、幅広く一般有権者や党員に向けた政策集と言える。

高市氏に関しては、支持勢力(議員)が急拡大していると言われている。

親中派の二階幹事長が? と思われるかもしれないが、特に二階派の議員によって議員票を増やしている。二階派は、議員票で高市氏を支援することで、「党改革」の筆頭として二階幹事長の首を切ろうとした岸田総裁誕生を阻止しようという作戦だ。

つまり、一回目の投票で、高市氏に二階派の議員票が流れれば、高市氏が2位となり、岸田氏が3位となる。ここで岸田総裁誕生を阻止し、決選投票では、河野氏に乗るか高市氏に乗るかを交渉材料として、キャスティングボードを握ろうとしているのだという。

「自由民主」の政策集で、あまり右寄りのカラーをそれほど前面に出していないこともまた二階派が乗りやすい状況を作りやすくしていると思われる。親中派の二階幹事長が高市氏を応援する理由は、「岸田総裁阻止という動機」しかない。

高市氏からすれば、あくまで建前として、政策集の公約に中国を刺激する「靖国神社公式参拝」と書かないことで、二階派陣営が賛同しやすい環境を作り、自らのポジションを高める狙いがあるのではないか。