2:党員選挙における「団体票」への熱烈アピール

候補者は、誰の票が欲しいのか? どこにアピールしているのか? 「自由民主」には、「政策集」と題して各候補の政策を載せているが、そこには団体票への猛烈なアピールが隠されている。

以下4候補の政策を見ていくが、私の見立てでは、最も業界団体を意識した発信をしているのは野田氏で、次いで岸田氏、高市氏、河野氏の順。アピール先もそれぞれ異なるのがとても興味深い。

■野田聖子

最も目を引いたのが、野田聖子氏だ。「地域の支えとして極めて重要な、郵便局やJAの更なる活用」と具体的に「郵便局」「JA」という言葉を入れている。自民党の昔からの支持団体であるこの2つの固有名詞を書いているのは、4候補中では野田氏のみである。

機関紙「自由民主」に掲載された野田聖子氏のページ
プレジデントオンライン編集部=撮影
自民党機関紙「自由民主」9月28日、10月5日合併号より

2005年の郵政民営化の際、野田氏は民営化に反対したことで自民党を離党した。郵政関係者の多くが野田氏に大きな恩義を感じている、と言われている。

蛇足だが、総裁選の党員向けの投票用紙は往復はがきで、支持する候補者の名前を書いてそのまま投函する。プライバシーに配慮して黒いシールなどを上から貼る形ではないので、候補者の名前が丸見えである。これを受けて、ある知人が冗談でこう言った。

「野田さんを応援する郵便局が、他の候補が書かれ投函された投票はがきを大量に捨てるかもしれない。野田さんが予想以上の党員票を獲得したら、アメリカの大統領選挙みたいに、『不正だ、不正だ』と騒ぎ出す他候補の陣営も出るだろうね」

そうしたことを疑われないようにするためにも、黒いシールなどを貼るべきである。また、岸田氏が言っているように、次回以降はオンライン投票ができるようになるといい。

野田氏に話を戻そう。野田氏は同紙において「国土強靭化の加速」もアピールしている。これは二階俊博幹事長が強力に進めてきたテーマであり、今回の総裁選で二階派議員の推薦人が多いことがこうしたところに反映されている。

さらに、「日本の自衛を担う若き自衛官へのリスペクトと十分な処遇の確保」といった自衛官の処遇問題にも言及している。これは自衛隊OB票である隊友会を意識したもの。隊友会も正会員、賛助会員24万人7000人を抱える自民党の強固な支持母体(団体)だ。

テレビ討論などで受ける野田氏の印象(表の顔)はLGBTQ(性的少数者)応援団であり、選択的夫婦別姓の実現を掲げるリベラルで進歩派としての一面が強い。しかし、同紙における上記に挙げたような党員へのアピールポイントを見れば、本質的にはマッチョな昭和自民党を体現する議員であるように見える。