クリントン政権(1993年1月~2001年1月)の副大統領だったゴアは科学に強く、インターネット普及のための規制緩和や気候変動に専心した。
政権を代表して来日し、京都議定書の署名したほか、2000年の大統領選挙での敗北後、気候変動対策を世界各地に訴えノーベル平和賞を受賞した。
G・W・ブッシュ政権(2001年1月~09年1月)の副大統領のチェイニーは、アフガニスタンとイラクという2つの戦争を引っ張り、賛否はあるかもしれないが、ブッシュ政権当時のネオコンといわれるタカ派外交の旗振り役となった。
オバマ政権(2009年1月~17年1月)の副大統領だったバイデンも、上院議員時代を合わせてワシントンで50年近く活躍し、昨年の選挙で長年の悲願だった大統領となった。
そして、トランプ政権(2017年1月~21年1月)のペンス副大統領は、福音派からの強い支持を集め、トランプ当選の大きな要因となった。
政権発足後も福音派関連の政策を進めたほか、日本にとっては冷徹なまでに中国に強く出る対中強硬姿勢を貫いたイメージも強い。
いずれも政治的な野心にあふれてぎらついている。この4人と比較すると、ハリスはどうしても影が薄い。
近年変化した、副大統領の役割
「女性初、黒人初、インド系アメリカ人初の副大統領候補」としてハリスが注目されたように、副大統領は選挙では重要な役割を担う。
だが、当選してからは別だ。大統領は大統領が職務を継続できなかった時に代行するのが副大統領の憲法上の役割である。それ以外は具体的に何をすべきかの記載すらない。
あえていえば、副大統領は形上、上院議長を兼ねるが、議会に張り付いているわけではなく、上院での法案投票が同数で賛否が割れた際に最後の1票を投じるだけの存在である。
過去の歴史を見れば、何をしているのか分からないような副大統領の方がむしろ多数派かもしれない。先に述べた、ぎらついた「先輩」たちは副大統領としてはかなり例外的な存在である。
フランクリン・D・ルーズベルト政権で副大統領を2期務めたジョン・N・ガーナーは退任後、副大統領についてこう言った。「バケツ一杯の温かい唾の価値もない」――。
ただ、ゴア副大統領以降の時代は、24時間ニュースチャンネルの普及やインターネットの爆発的普及が重なっている。
各政権が衆人環視の状態に置かれる中、今では副大統領の存在が薄ければ、すぐに叩かれるようになる。
特に、ハリスの場合にはソーシャルメディアの普及と政治的分極化で上述のゴタゴタについて女性蔑視的な書き込みが一気に増えている。このことには怒りを感じざるを得ない。