その代表的なものが、31歳と若いが既に左派の顔となっているオカシオ・コルテス下院議員のものだ。
オカシオ・コルテス議員は「がっかりした。米国の国境で亡命を求めることは、100%合法的だ。アメリカは何十年もラテンアメリカ諸国の政治に介入し、不安定化させてきた。
誰かの家に放火するのを(アメリカが)助けてきたのに、その家から逃げ出した人を責めることはできない」と辛辣なツイートをした(注1) 。
オカシオ・コルテス議員に同調する意見は左派を中心に広がっていった。政権の中でハリスに与えられている担当政策の一つが移民問題だが、この一言で、「移民に冷たい」というイメージが広がってしまった。
翌日、ホンジュラスでコロナウイルスワクチン提供などを決めた直後のNBCとの単独インタビューでは、「移民問題の最前線である米墨国境を訪れたかどうか」という質問に対して、「いつかは」と答えた後、「“私たち”は国境にこれから訪れます。“私たち”は国境を訪れたこともある」と主語をあいまいにして、返答をはぐらかした。
これに対して「“あなた”は、国境を訪れたことはないでしょう」とNBC記者に訂正を求められたのだが、ハリスは何と「私は欧州にも行っていない」と頓珍漢な返答をした。
おそらく「米墨国境が重要なので、欧州にもまだ、行っていない」と答えたかったのかもしれないが、墓穴を掘ってしまった。
(注1)https://twitter.com/AOC/status/1402041820096389124
担当政策は目立つ成果を上げづらい
「外交音痴だ」といった批判が相次ぐ中、急遽日程を調整して6月25日には実際にテキサス州エルパソを訪れ、米墨国境を視察することになる。
メキシコやホンジュラスなどからアメリカ国内に逃げ込んでくる非合法移民問題は政策的に厄介だ。
オカシオ・コルテス議員のように、民主党左派は「逃げるには逃げる理由がある。移民が起こる現状に対応し、アメリカはむしろ積極的に受け入れていくべき」という立場である。
その一方で共和党側は「メキシコ政府やホンジュラス政府が対応をしないのが問題。アメリカの治安が悪くなり、国民の雇用も奪われる」として近年、トランプ政権が行ったような徹底した移民排除を支持する。
視察をするだけでも党派的な反応を生んでしまうため、ハリスは慎重に対応していたが、その慎重さがあだになってしまった。
中米からの移民問題だけでない。政権内でハリスに与えられた担当政策の多くは、難しく時間がかかるものばかりだ。
たとえばその一つの「選挙制度」については、移民問題と同じくらい党派対立が顕著である。
共和党が優勢な南部や中西部諸州はここ10年程、投票所の数を減らしたり、投票の際の身分証明書提示を厳格にさせるなど。黒人やヒスパニックの投票機会の制限につながりかねない制度改革を進めている。
これに対し、民主党側は必死で連邦政府側の法制度改革でこれを阻止しようとしているが、主戦場は連邦議会であり、ハリスが動ける範囲はせいぜいバイデン政権と民主党議会の調整役くらいしかない。
ハリスの活躍できる範囲は狭く、期待された「新しい時代の女性」のイメージを作り出すまでには程遠い。