実質10分で3万円の日当が支給された
彼女が降りたあと、タクシーが走り去っていくシーンが撮影された。一発OKだった。撮影はこの一回だけで無事に終了した。10時間待って10分ほどの仕事だった。会社がどのような契約をしたか知るよしもないが、通常の日当(3万円)を得た。実質10分だけで1日分の日当なので割のいい仕事といえなくもないが、ふだんの乗務のほうが充実感があった。
この撮影は私が帰った後も夜遅くまで続いていたらしい。何人もの若者たちがやぶ蚊の中で夜中まで働く姿は好きでなければできない仕事だと思った。それにしてもスタッフたちの主演女優とスポンサーへの気づかいは半端ではなかった。どこの世界にもその世界なりの気苦労があるのだろう。
後日、社報に「ついに黒タク、テレビドラマ初出演!」の文字が私の名前と写真付きで載った。しばらくのあいだ、それを見た同僚から「いい仕事したらしいね」とからかわれた。