インターネットの財産は「意見を共有できること」
【村井】これからは「人間と地球」ということを意識するようになるんだ。大昔、交通手段もなく、情報も限られていた時は、自分の村のことしかわからなかった。でも、今はインターネットもあるし、他のコミュニケーション手段もあるから「人間と地球」との関係をいつでも意識できるようになっていると思う。中国や北朝鮮のようにインターネットを遮断する仕組みもあるけれども、抜け道はいろいろあるよね。
【竹中】そういう切断回避技術がインターネットの技術的本質ですもんね(笑)。
【村井】2010年にノーベル平和賞を受賞した中国の人権活動家・劉暁波さんは、中国政府によってずっと投獄されていたけれども、彼の意見を発信できたのはインターネットがあったからで、「個人の意見を共有できる」ということが重要なこと。何が正しくて何が正しくないかではなくて、意見を共有できる空間があるということがインターネットの大きな財産なんだ。
【竹中】そうですね。
【村井】そして、今度は地球という視点で見ると「地球で何が起こっているか」が共有できる。例えば「北極の氷が全部溶けてしまった」とか「南極の微生物が生態系にどういう影響を与えているか」ということもわかる。さまざまなセンサーが地球をスキャンしている状態だよね。「地球と人間の生活の関係はどうなのか」ということがわかってきている。みんなが気づき始めている。その根っこには、全部インターネットがある。
誰でも使える、どんな目的でも使えるデジタルコミュニケーションの基盤があるから、地球の温暖化などを把握していくことができるし、人類共通の課題をどうすればいいのかも考えられる。知を共有したり、情報を共有したりする空間がインターネットなんだ。それが国に妨げられないで発展していかなくてはいけない。
【竹中】今はフェイクニュースに代表されるような“ノイズ”を流すことで得をする仕組みや社会的構造があると思うんです。だから、これからの課題は情報の純度をどれだけ高めることができるか。わかりやすくいうと、池に毒を流すやつが出てきたから、その毒をどうやって除去するのか。その毒を除去する技術は、今後何百年も使えるような基本的なものになると思うので、プラットフォームとしてのインターネットの完成度が上がるはずなんです。それを次の世代で考えていかなくてはいけません。50年後に「昔は噓のニュースを流しても捕まらなくて、国や軍隊も右往左往していたんだって」と笑い話になっていてほしい。
今は、アメリカの大統領選で大騒ぎしていた人たちが書き込んだものをフィルタリングして、それが「数人くらいの少人数が扇動していたのでは」というところまで絞り込める技術ができたようです。そういうところまで、もう来ているんです。それが、言論の自由や言論統制の側面から考えた時に良いことなのか悪いことなのかは難しい議論ですが、その技術をどうするかも次の世代が考えていかなくてはいけませんね。