国家権力のネットへの過剰な介入は危険

【村井】もうひとつ。今、「危ないな」と思うのは、インターネットがこれだけ生活の基盤になってくると、政府は「この国をどう守るか」「この国をどうコントロールするか」という責任から、インターネットにいろいろと関与してくると思う。

【竹中】そうでしょうね。

【村井】国連のヒューマンライツ(人権)の議論の中に「インターネットへのアクセスは人権」だということが入っている。ヒューマンライツとは「水が飲める」とか「健康になる」とか、生きるうえでの最低限の権利。だから、インターネットへのアクセスが人権だということになれば、国は誰もがインターネットにアクセスできるような環境にしなければいけないし、インターネットが使えなくなったら国のせいになる。国連は「インターネットは人権だ」ということになると、インターネットを作っている人たちは喜ぶと思ったみたいだけど、インターネットを作っている人間からすると「危険だ」と感じるんだよ。

【竹中】国家権力がインターネットに関与してくるということですからね。

【村井】そう。国や政府は時に間違いを起こすこともある。インターネットは地球上の人間をつなぐものだけど、そこに国というものがあまりに強く関与してくると、本来の“地球上の人や社会のつながり”というインターネットの空間が分断されたり、制御されたり、誰かの支配下に置かれる可能性が出てくる。

【竹中】はい。国境によってインターネットが分断されるのは本末転倒であると。

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【村井】国連に任せておいたら発言力のある国の思い通りになるだろうし、G20に任せたら計20カ国・地域で決めるかもしれない。もし、国が関与する、国に任せるということになったら、ある国の部分は自由な空間だけれども、ある国の部分は自由な空間でなくなるかもしれない。また、自由空間を守っている国と守らない国で戦争が起こるかもしれない。

【竹中】「国」に縛られた発想によってインターネットが変質する可能性があると。今のうちに何とかしないといけませんね。

【村井】そう。そして、何かおかしな方向に行った時にインターネットの自由な空間を守るのは、技術を理解する者の責任だと思う。なぜなら、技術がインターネットを作ったから。自由な空間を守ることは技術者の使命だと思う。

【竹中】インターネットテクノロジーのスペシャリストや、それを志す人がインターネットの意義をきちんとわかってくれるのか。僕らもきちんと説明していかなければいけません。

【村井】次の世代へのメッセージとしていちばん大きなことは「インターネットは人類が作ったグローバルな空間」だということ。そして「その空間がどう発展していくか」は作っている人にかかっている。地球でただひとつの自由空間をテクノロジーで守っていく、発展させていくことは難しいかもしれないけれど、ぜひ、頑張ってほしい。