ハーバードを上回る規模で約4%の運用益を目指す

こうした中、昨年12月、政府は10兆円規模の大学ファンド創設を決めた。お手本にしたのは、海外の大学だ。欧米のトップクラスの研究大学は寄付金や産学連携収入などの自己資金を元に、独自のファンドを作り、運用益を研究費や若手人材育成に充てている。それが大学の成長の要となっている。

ファンドの規模も大きく、米ハーバード大4兆5000億円、イェール大3兆3000億円、といった具合だ。日本でも東大などが独自のファンドを持つが、東大でも150億円で、遠く及ばない。内閣府によると、2018年度にハーバード大は2004億円の運用益を生み出したが、東大は2億円余り。海外との差は開く一方だ。そこで政府は一気にファンドの規模を大きくし、年3%の運用益を生む方針を打ち出した。

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文科省所管の研究開発法人・科学技術振興機構(JST)に大学ファンドを置き、今年度中にスタートする。政府出資5000億円、財政融資4兆円の計4兆5000億円から始め、株65%、債券35%で構成する。運用は外部に委託する。

ファンドの支援を受ける大学や、民間企業からも出資を募り、早期に10兆円規模の運用元本を作るという。物価上昇分も勘案し、約4%の運用益を目標にし、その中から年3000億円を、大学支援に使う計画だ。ゆくゆくは大学が自分たちの資金で、自らファンドを運用する仕組みを目指す。

「10兆円」ありきで参加数も選考基準も決まっていない

大学ファンドで支援する大学の数、選考基準、支援期間などの具体的な内容はまだ決まっていない。もし5つの大学を「特定研究大学」として支援するなら、1校あたり600億円が配られる計算になる。10大学なら300億円だ。国立大学の運営費交付金(2019年度)は、一番多い東大でも820億円、2番目の京大560億円、3番目の東北大460億円ということを考えると、かなり巨額だ。大学へのインパクトは大きい。

担当する内閣府と文部科学省は、12月には具体的内容について結論を出すというが、今年度中に運用を開始するスケジュールから見れば、かなりギリギリだ。本来なら、まず支援制度を設計して必要な金額を算出するべきだが、10兆円という数字が先に走り出している。

大学の研究者の間では「できるだけ多くの大学に配分してほしい」「10兆円を金融市場に流さずに、大学や研究者に直接お金が届くようにしてほしい」といった意見が強い。

しかし、政府は「特定研究大学」の数を増やしたくない。多くの大学に薄く配分すれば「第二の運営費交付金」のようになり、大学改革につながらない、と考えるからだ。